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「高校中退して遊んでばかり」「デビュー戦で負けてタバコを捨てた」“どこにでもいるヤンチャな若者”がなぜレジェンド格闘家に? 金原正徳42歳の半生
posted2025/10/05 11:10
『超RIZIN.4』のYA-MAN戦を最後に引退を表明した金原正徳(42歳)。20年以上におよぶキャリアのなかで、数多の強敵と対戦した
text by

長尾迪Susumu Nagao
photograph by
RIZIN FF Susumu Nagao
42歳、金原正徳「現役最後の激闘」
2025年7月27日。『超RIZIN.4』の試合後、ひとりのMMAファイターが引退を表明した。
42歳の金原正徳は29歳のYA-MANと激闘を繰り広げ、そして敗れた。
2ラウンドの序盤、金原の飛び膝蹴りがYA-MANのアゴを打ち抜く。衝撃音とともに頭が天井を向き、汗が飛び散った。リングサイドで撮影していた私のすぐ目の前だったこともあり、これで試合が終わると確信した。金原自身も「あれで勝っていたはずなんですけど」と手応えを感じた一撃だった。
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だが、YA-MANは無類のタフネスを見せ、マウントを奪われながらもこのラウンドを凌ぎ切った。3ラウンドを迎える前のインターバル中に、金原の様子を注視した。彼にしては珍しく肩で息をしており、その目から輝きが消えかけているように見えた。「残りの5分間を戦い切ることができるだろうか」という危惧が頭をよぎった。
3ラウンド、2分51秒。YA-MANのパンチを受けてグラウンドで動きが止まった金原を見て、レフェリーが試合をストップした。
なぜ40歳を過ぎて、あれほど強くなれたのか
名勝負の余韻が残るリング上で発せられた金原の引退宣言を聞き、言いようのない寂しさがこみ上げてくる。同時に、長く彼を撮影してきた者としてこうも思った。
「どうして、この歳まで試合を続けてこられたのだろうか」
その思いは、ずっと以前からあった。金原は日本をはじめアメリカ、ロシア、リトアニアなど、世界を舞台に戦った。通算成績は53戦31勝17敗5分。数万人規模の大会場で行われるUFCやRIZINなどのメジャー団体だけでなく、観客が500人に満たないような小さな大会にも出場した。金原のようにイベントの大小を問わず、かつ長く戦い続けた選手を私は知らない。しかし、金原正徳という格闘家のパーソナリティを深く掘り下げた記事は意外なほどに少なかった。
特に現役晩年のRIZINでの試合は惹かれるものが多かった。金原からは、ただ強いだけでなく人間としての“根本的な強さ”を感じた。そして、間違いなく試合をするたびに強くなっていった。
不惑を過ぎた人間が、なぜあれほど強くなれたのか。その秘密を知りたいと思った。それ以上に、金原正徳というひとりの人間に興味があった。



