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「ケラモフとやらせろ、舐めんなよ」「お前ら、クレベルに勝てんのか」40代で迎えた全盛期…金原正徳に問う「なぜ格闘技を“やめられなかった”のか?」
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長尾迪Susumu Nagao
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2025/10/05 11:12
金原正徳は『RIZIN.44』でクレベル・コイケを圧倒。「影のフェザー級最強」「格闘技界の裏番長」という評価を裏付ける完勝だった
そして、所英男の存在も大きかった。選手人生の半分以上をともに歩み、自分が負けたときは励まされ、所が負けたときはケツを叩いた。
所は8月で48歳になった。選手として残された時間は少ない。盟友の引退を見届けた後は、昔話を肴にふたりで酒を飲むことを楽しみにしている。「飲むたびに毎回、同じ話をしてそうですけどね」と金原は笑った。
金原正徳の信念「格闘技は強さがすべて」
引退後はジムの運営や後進の指導にあたる金原だが、このところ解説の仕事も増えている。理想とするのは「難しい言葉は使わずに、誰にでもわかりやすく、それでいて深みのある解説」。日本の格闘技の低迷期を肌で知る男は、業界そのものが賑わい、発展していくことこそが何よりも重要だと考えている。
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「自分がすごく気をつけているのは、『選手を必ず立てる』ということ。まずは格闘技界が盛り上がることが大事だと思っているので。最後の試合の会見でも言いましたけど、老害にはなりたくない。現役じゃないからこそ、面倒くさいことは言わないようにしています」
さらに9月には、UFCで悔しい連敗を喫した朝倉海のコーチに就くことも明かされた。かつての金原と同様に適正ではないフライ級で力を発揮できなかった海は、バンタム級に階級を上げて再起を目指す。世界レベルの技術と経験を持つ金原の存在は、大きな力になるだろう。
朝倉兄弟のようなスターでもなければ、天才でもない。そんな金原正徳が格闘技界のレジェンドになることができたのは、何があっても揺るがない「強さ」への並々ならぬこだわりがあったからだ。どれだけ年齢を重ねても、その本質は変わらなかった。
YA-MAN戦後の会見で話していたことを、金原はインタビューでも口にした。「会場がさいたまスーパーアリーナでも、新宿FACEでも、意識は同じ」「格闘技は強さがすべて」――金銭欲や功名心ではなく、純粋にMMAを追求する姿勢は、見る者に少なからず影響を与えた。おそらく今後、そんな価値観を共有した選手やファンがさらに増えていくだろう。
ひとつだけ、インタビューで聞き忘れたことがある。
「金ちゃん、もう現役復帰はしないよな?」


