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「すげえいい人だな…」“KIDに勝った男”金原正徳42歳が明かす不思議な縁「もし今、KIDさんがいたら」UFC出場、RIZINで再起…“戦い続けた格闘家”の告白
posted2025/10/05 11:11
2009年大晦日の『Dynamite!!』で山本“KID”徳郁に勝利した金原正徳。だがその後、日本の格闘技界は「冬の時代」に突入する
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長尾迪Susumu Nagao
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Susumu Nagao
「KID有利」の下馬評を覆してカリスマを圧倒
2009年12月31日。20時を少し過ぎたころだった。「戦極代表」の金原正徳と、「DREAM代表」の山本“KID”徳郁がリング上で対峙する。4万5000人超の観客が集結した超満員のさいたまスーパーアリーナの客席から、この日一番の歓声があがった。
リングサイドでカメラを構えながら、私は注意深く2人の体格や肌つやを確認した。事前の予想では打撃に勝るKIDが有利と言われていた。そんな下馬評からKIDが勝つという読みのもとで撮影を行おうと考えていたが、並び立つ両者を見て、なかば直観的に金原に分があるように感じた。
試合開始のゴングが鳴った。金原は落ち着いて自分の距離でプレッシャーをかけている。この間合いなら相手のパンチが当たることはないと確信しているようだ。KIDは一気に距離を詰めてインファイトを仕掛けるが、金原のパンチや膝蹴りがカウンターでヒットする。思うように攻撃ができないKIDの苛立ちが、こちらにも伝わる。KIDはローキックにタックルを合わされ、テイクダウンを奪われた。金原の寝技地獄から抜け出せないまま1ラウンドが終了した。
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インターバル中、私はこの先の撮影の“撮れ高”を、KIDではなく金原に求めることにした。体格差だけでなく、スタンドでの支配力、寝技のスキルなどを総合的に見て、率直に金原の力量が優っていると感じたからだ。それならば金原の動きにアジャストした方が、よりいい写真が撮れるのではないかと考えた。
2ラウンドの序盤、パンチに合わせてタックルに入る金原。ロープ際だったこともあり、もつれるようにしてKIDが上を取る。数多くの選手を葬ってきた得意のパウンドが炸裂するかと思った瞬間、金原は顔面に足を引っかけて腕十字を狙う。一瞬、KIDの顔が歪んだ。まるで「何で俺の好きなように攻撃させないんだ」とイライラを募らせたKIDの心の声が聞こえてくるかのようだった。
そんな焦燥を見透かしたように金原はマイペースで試合を進め、右のパンチでダウンを奪った。KIDが前のめりになって倒れるほどの破壊力だった。その後の攻撃をしのぐことができたのは、長く日本のトップファイターとして君臨したKIDの意地だったのではないだろうか。
3ラウンド終盤にパンチを受けてぐらつく場面があったものの、試合は金原の完勝で幕を閉じた。KIDが主戦場のMMAで日本人選手に敗れたのは、これが最初で最後だった。



