「東大・京大合格者が出る」福岡の公立進学校で甲子園4回…高校野球の暴力・カネに“染まらなかった”監督がいた「週16コマ授業」「練習後は塾へ」 

　青野は持論を声高に語ることはない。こちらの質問に、博多弁とはちょっとニュアンスが違う出身地・北九州のなまりで、次々に打ち返してくるのみ。「勝手きまま」な独り言のように聞こえるが、それが示唆に富んでいて考えさせられるのだ。

「野球で人間教育とか言わんでも、勝手に生徒は育っていくもんよ」
「人間の集中力っちゅうもんはそんなに続かんのよ。試合で集中できるのは8分20秒」
「『罰走』なんて言わんでって。陸上部の先生に『走りを悪く言わんで』とお願いされた」
「スカウトで忙しくしている監督さんは、授業や練習にちゃんと出とるっちゃろかね」

教え子の記事や記録を懐かしそうに話す東筑前監督・青野浩彦氏 ©Yuki Kashimoto

　先生というより、どこかの公園にいるオジサンのつぶやきのよう。それでいて妙に腑に落ちるのだ。軽やかに発するシニカルな言葉は、誰かを直接的に批判したりはしない。件の広陵高校の不祥事についても「あんなに164人も部員がおったら、生徒一人ひとりをぜんぶ見きらんっちゃろ」と、どこか達観的。その視線は選手の心のほうに向いているように思えた。実はこの日の取材も「話すことなんてないですし、僕の取材なんていいです」と一度断られていた。考えてみればそうかもしれない。勇退した自分はやりきった、今さら話すことなんてない。そういうことだろう。43年間の「監督」としての偉業をもすでに手放しているように思えた。

東大、京大進学者も…東筑野球部とは？

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　青野の凄みは、県下有数の進学校である東筑を甲子園出場に導いた点にある。青野自身、小中高大学を公立校で学んできたため、公教育の理念が軸にある。「野球で一生メシが食えるわけではない。勉強をする習慣は一生役に立つ」と話し「うちの子たちは野球をするために勉強を頑張っています」と胸を張る。

共用グランドの練習は、他部の生徒同士で声をかけ合うことで成り立つ（2018年撮影） ©Yuki Kashimoto

　私学優勢の福岡高校野球で、過去40年間で夏の甲子園に出た公立校は東筑だけ。県内最後の甲子園出場公立監督が、青野だった。しかし周囲から評価されたのは、甲子園4回出場の実績ではなく、むしろ商業的な勝利主義に走らず教育の思想に留まり続けたこと。文武両道を優先させた、選手の自主性を伸ばす指導力が評価されてきた。65歳になった現在も、保健体育教師として週16コマの授業を受け持つ。

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