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甲子園の風BACK NUMBER
「東大・京大合格者が出る」福岡の公立進学校で甲子園4回…高校野球の暴力・カネに“染まらなかった”監督がいた「週16コマ授業」「練習後は塾へ」
text by

樫本ゆきYuki Kashimoto
photograph byYuki Kashimoto
posted2025/09/05 11:02
東筑の前監督、青野浩彦。ピンチの時こそ観察眼を発揮し、とっておきの一言で選手の背中を押す(2019年撮影)
野球部の練習は平日15時45分に始まり、完全下校は20時。そのあと塾に通う選手も多い。月、木曜は7限があるため平日の平均練習時間は3時間ほど。野球推薦はなく、選手たちは一般クラスに在籍し、学校行事にも積極的に参加する。部活を引退すると受験勉強に励み、近年では東京大学に2017年夏の甲子園出場メンバーの別府洸太朗、1学年下の秀島龍治の2選手が合格し、京都大学や早慶にも複数名選手が進むなど、合格実績も他の生徒の模範となった。
ちなみに2017年夏「石田伝説」で話題になったエース石田旭昇さんは法政大学卒業後、FBS福岡放送のアナウンサーとして入社。8月23日は入社3年目にしてソフトバンク戦の地上波実況を務めるなど、地元スポーツメディアで奮闘している。
証言「青野先生は勝利主義者ではないが…」
「学力の高い子が多いので何をしてくるのかわからない怖さがありました」。今年4月に小倉工から赴任した牧島健コーチは「対戦相手」として見た東筑をそう語る。選手時代は野球推薦で福工大城東に入学し2006年夏に甲子園出場。東海大で6度全国大会出場の王道を歩んできたが「東筑の練習の合理性に驚きました。練習方法を見ると本質をとらえている。時間は短いのに、振る量、実践の量。無駄がない。密度が濃い。実戦練習にすべての要素が詰まっていて『このやり方があったのか』と膝を打ちました」と感嘆する。
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東筑OBでもある福岡高野連の吉岡徹郎理事長も青野の戦術と準備に敬意を込めて話す。「1987年の秋の北部予選で、私たち東筑が延長15回の激闘で青野監督率いる北九州高校にスクイズのサインを見破られて負けました。軟式から硬式野球部になって4年目の北九州高校でも、勝つことへの準備は手を抜いていなかった。青野先生は勝利主義者ではないが、勝負に対しての妥協が一切ないのです」。
練習は突き詰める。どうせやるのだったら、と試合の勝敗にもこだわる。同時に、「野球で一生メシが食えるわけではない」という現実も生徒たちに伝える。並々ならぬ熱量と、突き放して考えられる平静さ。そのバランス感覚にこそ、青野の真髄があるのだと思う。
無名校も名門も区別せず練習試合
2025年8月15日、甲子園では育成功労賞の受賞式があり全国の代表8名の中に、ユニホーム姿の青野の姿があった。監督として4回甲子園に関わった43年間が評価された瞬間だった。青野はこの日、2回戦に勝ち進んでいた福岡代表・西日本短大付の試合も観ることができた。


