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甲子園の風BACK NUMBER
「東大・京大合格者が出る」福岡の公立進学校で甲子園4回…高校野球の暴力・カネに“染まらなかった”監督がいた「週16コマ授業」「練習後は塾へ」
posted2025/09/05 11:02
東筑の前監督、青野浩彦。ピンチの時こそ観察眼を発揮し、とっておきの一言で選手の背中を押す(2019年撮影)
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樫本ゆきYuki Kashimoto
photograph by
Yuki Kashimoto
「高校野球の監督に求められているものは、本当に“勝つ力”なのだろうか?」
甲子園をめぐる熱狂の一方で、ふとそんな疑問が浮かぶことがある。教育の名のもとに、時に理不尽な練習、不健全な上下関係、あるいは、暴力的な指導が繰り返されてきた歴史。かつての高校野球界には、俗世の欲に心を曇らせた指導者がいたと聞く。教員でありながら商業的な誘惑に道を見失い、正しい判断力や道徳観が失われていく……。甲子園という華やかな世界が生んだ負の側面と言えるだろう。
コンプライアンスが制度化されている現代ではだいぶ改善されてきているとはいえ、やはり高校野球界には商業主義やビジネス思考、学校のブランド力を上げるための手段にされているという部分は少なからずあると思う。このままでいいのだろうかという不安がよぎる。
ある無名監督の姿…なぜ筆者は惹かれたか?
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この夏、一人の監督が勇退した。福岡県立東筑高校の青野浩彦だ。選手たちは「青野さん」「青野先生」と呼ぶ。「教育の一環」である高校野球の中で「倫理観」を貫いた稀有な甲子園監督だった。
青野は、東筑の選手として高3夏(1978年)に1度、指導者として4度甲子園に出場している。筑波大を卒業後、高校教師の道へ。教員生活43年、東筑では第1期(16年)と、第2期(10年)で計26年を過ごした。教え子に元ソフトバンク・柴原洋(北九州高)、元広島・井生崇光(東筑)がいる。とはいえ、全国的には無名の監督と言っていいだろう。人前に立って語ることを好まず、選手たちの背中を静かに押すような指導を貫いてきた。声を荒らげることはなく、真っ先にグラウンドに来てただ選手の動きを見つめるだけ。選手の成長を黙って観察していた。数々の公式戦で起こしてきた奇策や番狂わせは、どんな空気の揺らぎすら見逃すまいとする観察眼から生まれたことは間違いない。

