「引退まで横浜一筋のつもりだった」落合博満の指導で開花した“ハマの大砲”多村仁志の衝撃トレード「『何故だ!?』という思いが渦巻いて…」 

「すごく大きな経験だったと思います。日の丸を背負うことは目標でしたし、また初めてメジャーリーガーが参加する国際大会だったので、代表に選ばれること自体光栄でした。ただ侍ジャパンのメンバーを見たらすごい選手ばかりでしたし、最初は控えかなと思っていたんですが、蓋を開けてみればレギュラーとして起用されました。驚きと同時に、日本のため、そして選んでくれた王監督のため全力で挑みましたね」

　このWBCの大活躍で多村のプレゼンスがよりアップしたことは間違いないだろう。これからも長く、少なくともFAの権利を取得するまではベイスターズでプレーしつづけるのだろうと周りはもちろん、本人もそう考えていた。

なぜ呼び出されたのか、見当がつかない

　だが多村は、WBCがあった年の暮れにトレードに出されてしまう。

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　師走の忙しい空気が漂うある日、多村は球団から連絡を受け、横浜市内のホテルへ向かった。そこは多村が入団会見をした思い出深い場所だった。なぜこの時期に呼び出されたのか、多村は皆目見当がつかなかった。

「球団関係者に会ってみると『トレードだ』と言うんです」

　まさかの急転直下の展開に、その瞬間、頭のなかは真っ白になった。

「球団の方は、『これは決して悪い話ではなく、相手側が求めてのトレードだから』と言うのですが、僕は放心状態でしたし『何故だ!?』という思いが渦巻いてしまい……。トレードは今でこそポジティブなイメージになってきていますが、当時はまだ“トレード＝チームを出される”みたいな感覚がありました。正直、ネガティブな感情にとらわれていましたね」

　ショック状態のままホテルを離れると、まずは妻に電話をし、次に両親に連絡をした。とくに父と兄は、大洋時代からの横浜ファンであり、誰もが驚きの声をあげたという。

不安しかなかった

　とにかく不安しかなかった。30歳になるシーズン、しかも福岡はこれまでまったく縁のない土地だった。横浜のフランチャイズ・プレイヤーとして野球人生を終えるのだろうな、とぼんやりとイメージをしていたのに……。

　帰宅し、茫漠とした今後について妻と言葉を交わすと、多村は重い足を引きずるように風呂に浸かった。湯煙のなか、トレードに出された事実を反芻し、そして不安ばかりの自分の未来を思った。

　そのとき、携帯電話にある人物から連絡があった。その一本の電話が、多村の考えを一変させることになる。

〈全3回の1回目／つづきを読む〉

#2に続く

「お風呂から上がると留守番電話が」ホークス移籍通告で放心状態のスラッガー・多村仁志の「スイッチが入った」王貞治監督の“ある言葉”とは

#3

「営業や査定システムまでアドバイスを」多村仁志が古巣に“出戻り移籍”を選んだワケ「参入2年目のDeNAで常勝ホークスの経験を試したかった」

#2

「お風呂から上がると留守番電話が」ホークス移籍通告で放心状態のスラッガー・多村仁志の「スイッチが入った」王貞治監督の“ある言葉”とは

#1

「引退まで横浜一筋のつもりだった」落合博満の指導で開花した“ハマの大砲”多村仁志の衝撃トレード「『何故だ!?』という思いが渦巻いて…」