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「お風呂から上がると留守番電話が」ホークス移籍通告で放心状態のスラッガー・多村仁志の「スイッチが入った」王貞治監督の“ある言葉”とは
posted2025/07/18 11:41
愛着ある横浜から“放出”されると受け止めて放心していた多村の心を動かしたのは、王貞治監督の「あるひと言」だった
text by

石塚隆Takashi Ishizuka
photograph by
JIJI PRESS
心身ともに疲弊した多村は、入浴を終えると携帯電話に着信があったことに気がついた。履歴を見ても知らぬ番号だった。誰なのかと訝しく思ったが、留守番電話に収められていた声を聞いて一気に背筋が伸びた。
「王だけど……」
声の主は、新天地となる福岡ソフトバンクホークスの王貞治監督だった。
王監督との電話
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速攻で、多村は電話を折り返し、詫びを伝えると王監督は次のように言った。
「まあこれも“縁”だから、その縁を大事にして、福岡で君が力を出しやすい環境をすべて揃えて待っています」
その瞬間、多村のなかで変化があった。
「王監督の言葉を聞いたとき、一瞬にしてスイッチが入ったんですよ。“縁”という言葉を頂いて、それまでの僕の野球人生は紆余曲折ありましたけど、縁によって歩むことができていました。だから王監督のその言葉で、完全に気持ちを切り替えることができたんです」
さて、このソフトバンクの多村獲得は、王監督のたっての希望だと言われている。2004年のキャリアハイもそうだが、2005年に始まったセ・パ交流戦でベイスターズがソフトバンクと対戦したとき、多村はエースの斉藤和巳らから2本のホームランを放つなど交流戦本塁打王に輝き、王監督にスラッガーとしてビッグインパクトを与えている。
だからこそ、本人が控えではないかと思っていた2006年のWBCで、王監督は好印象を持っていた多村をレギュラーに抜擢したと考えてもおかしくはない。王監督との“縁”が、多村の新しい野球人生の扉を開くことになる。
ホークスでのカルチャーショック
新天地である強豪ソフトバンクでの日々は、知れば知るほどカルチャーショックの連続だった。

