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渦中の選手は「全然、寝られなくて…」半分以上走ったのに…突然レース中止→15時間後に再スタート? 陸上アジア選手権で起きた“まさかの珍事”
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和田悟志Satoshi Wada
photograph bySatoshi Wada
posted2025/06/10 06:00
まさかのアクシデントで「走り直し」となったアジア選手権の女子1万m。それでも廣中璃梨佳(日本郵政G)と矢田みくに(エディオン)が銀、銅メダルに食い込んだ
それでも、慌てずに後半勝負と決めていた廣中は、後半に入ってジェプケメイを逆転し、2位でフィニッシュ。1年半ぶりの30分台となる30分56秒32の好タイムをマークし、銀メダルに輝いた。
「世界陸上(に出場すること)を考えた時に、順位が大事になってくると思ってはいたんですけれど、順位ばっかり考えすぎてスローになるのが一番嫌だった。世界陸上に向けて自信となるレースにもしたかったので、順位だけじゃなく、タイムもしっかり狙って、今の段階はどのぐらいなのか、自分で確かめたかった」
昨シーズンは右膝のケガや仙骨の疲労骨折などに苦しんだだけに、完全復活へ好感触を得られた様子だった。
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一方、矢田も奮闘を見せた。
「世界陸上を狙う試合だったので、緊張感はあったんですけど、背負うものはあまりないというか、他の強い選手と戦えるのでワクワクした気持ちで走りました」
このタフな条件下で、なんと31分12秒21の自己ベストをマークし、3位に食い込み、目標としていたメダルを獲得した。
そして、二人とも、ワールドランキングでの世界選手権出場に一歩前進した。
昨今日本国内のレースでは、日本一を決める日本選手権でさえも、ペースメーカーやペーシングライト(LEDライトで設定ペースを示すシステム)が採用され、記録の水準は確実に上がっている。
その一方で、世界で戦うための“強さ”が身に付いているのか、疑問視する声も聞かれた。
「不測の事態」でも…力を発揮できる強さ
今回のアジア選手権では、ペースメーカーもペーシングライトもなかった。それどころか、激しい揺さぶりや“珍事”と言えるアクシデントまであったなかで、廣中と矢田は好タイムをマークした。だからこそ、余計に価値のあるレースだったように思える。
また、不測の事態を跳ね除けて、きっちりと自分の力を発揮できたことで、得られたものも大きかったはずだ。
もちろん長距離種目はまだまだ世界のトップとの差は大きい。だが、アジアの舞台でタフな一面を見せた彼女たちが、どのように世界に立ち向かっていくのか、今後にも着目していきたい。

