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渦中の選手は「全然、寝られなくて…」半分以上走ったのに…突然レース中止→15時間後に再スタート? 陸上アジア選手権で起きた“まさかの珍事”
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和田悟志Satoshi Wada
photograph bySatoshi Wada
posted2025/06/10 06:00

まさかのアクシデントで「走り直し」となったアジア選手権の女子1万m。それでも廣中璃梨佳(日本郵政G)と矢田みくに(エディオン)が銀、銅メダルに食い込んだ
そんな悪天候のなか、女子1万mのレースが行われた。雨でも陸上の試合は行われるのが常だが、これほどの暴風雨のレースは筆者も経験はなかった。
しかも、レースが進むにつれ雨脚は強まるばかり。トラックに打ち付ける雨の飛沫で選手の足元が霞んで見えたほどだった。選手は視界が相当悪かったに違いない。計測用の機材が置かれたテントも吹き飛ばされそうになっていて、係員が必死にテントの脚を押さえていた。
レースは、3000mを過ぎてカザフスタンのD.ジェプケメイ(Daisy Jepkemei)とバーレーンのV.ジェプチュンバ(Violah Jepchumba Motosio)が抜け出し、それを廣中璃梨佳(日本郵政グループ)や矢田みくに(エディオン)、中国の嘿烏嘎(He Wuga)が追う展開になった。
レース中盤で…まさかの終了!?
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レース中盤にかけて廣中がギアチェンジ。ジェプチュンバを抜き去り2位に浮上し、得意の後半で追撃態勢に入ろうかというその時だった。
係員が突然、選手の進路に立ちはだかり、レースを終了させたのだ。
廣中にとっては、久々に30分台の好記録を狙えるペースで進んでいただけに、そのままレースを続行したかっただろう。だが、5200mを走ったところでストップとなった。
皮肉にもレースが中断となった後に雨脚は弱まってきたが、その一方で、雷鳴が轟いており、選手の安全面を考慮すればやむを得ない判断だった。
「自分の動きは5000m以降良くなってくると思っていて、“ここからだ”という時に中断となって……びっくりしたんですけれど、選手の安全面を考えてくれてのことなんだなと思いました」
こう振り返る廣中もその判断を受け入れ、気持ちを切り替えようとしていた。
ただ、警報まで出ている天候であったならば、レース前にスタートを遅らせる判断ができたようにも思うが……なかなかうまくいかないものである。
ちなみに1万mのレースで中断という異例の事態に筆者が出くわしたのは、これが2例目だった。