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レース前にペースメーカーを務め…タフすぎる田中希実も驚く「31歳の母親キピエゴン」の“不可能に思える挑戦”とは?「聞いただけでもワクワクします」
posted2025/06/10 17:00

田中希実(左)が1500mの世界記録保持者キピエゴン(右)の“驚きのチャレンジ”について語った
text by

和田悟志Satoshi Wada
photograph by
L) Nanae Suzuki / R)NIKE
なんてタフなんだ! 誰もがそう思ったに違いない。
5月18日に国立競技場で開催されたセイコーゴールデングランプリに出場した女子中長距離の田中希実のことだ。
この大会で田中は1500mに出場したが、自身のレースの前に、なんと3000mでペースメーカーを務めたのだ。3000mは11時30分スタート。次なる出番、1500mの号砲が鳴ったのは13時10分。田中が体を休めた時間は90分ほどしかなかった。
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このタイムテーブルは、実は田中には想定外だった。田中がペースメーカーを引き受けると決めた時点では、今年のタイムテーブルは決まっていなかった。前年は1500mが14時50分スタートで、その後に5000m(昨年は3000mは非実施)が16時46分に実施されており、「昨年のタイムスケジュールを参考に考えていて、1500mの後に3000mが行われると思っていたので引き受けました」と言う。
ところがタイムテーブルが送られてくると、田中の想定していた順番とは逆で、しかも、種目間のインターバルも短かった。
「ちょっとどうしようかなと思いました。でもペースメーカーをお断りしたらご迷惑がかかってしまいますし。であれば、逆に1500mをやめようか、とも考えました。すごく迷ったんですけど……」
なんとも責任感の強さ、そして人の良さを感じるコメントだが、田中は考えを巡らせた末に、自身のレースとペースメーカーとを両立させることを決断した。
「できない言い訳をするのではなく、決まったことに対してしっかり向かっていくということを、まずはやってみてどうなるか。それをその後につなげていきたいと思って決めました」
「自分のテーマを貫けたかなと」
こうして田中は“チャレンジ”を敢行した。3000mでは途中2000mまで見事なペースメイクで引っ張り、山本有真(積水化学)らの好記録をアシスト。メインレースとなる1500mでは、第2集団でレースを進め4分6秒08で2位に入った。自己ベストやシーズンベストには届かずとも、前年より順位も記録も良く、この時期としてまずまずの結果と言えるだろう。田中自身はこうレースを振り返った。