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渦中の選手は「全然、寝られなくて…」半分以上走ったのに…突然レース中止→15時間後に再スタート? 陸上アジア選手権で起きた“まさかの珍事”
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和田悟志Satoshi Wada
photograph bySatoshi Wada
posted2025/06/10 06:00

まさかのアクシデントで「走り直し」となったアジア選手権の女子1万m。それでも廣中璃梨佳(日本郵政G)と矢田みくに(エディオン)が銀、銅メダルに食い込んだ
初めて直面したのが2014年の全日本大学駅伝関東地区選考会で、やはり荒天のためレース途中で中断となった。ただ、この時は補員によるオープンレースで本大会への選考には影響がなかったため、再レースは行われなかった。もちろん、国際大会での中断→再レースというのはほとんど聞いたことがない。
アジア選手権に話を戻すと、再レースは翌朝10時15分スタートに決まった。つまり、前日のレース中断から約15時間後に再レースが行われることになったわけだ。
レース中断後の選手は…「お互いに寝られず」
矢田はこんなエピソードを明かした。
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「廣中さんと同じ部屋なんですけど、アドレナリンが出ていて、お互いに寝られず『まだ寝てないよね』とか言い合っていました」
再レースを翌朝に控えて、その日の夜は二人とも眠れない夜を過ごしたという。
約5000mも走って、疲労も抜けきらないうちに再レースとなった選手たちが不憫にも思えた。当然彼女たちにも動揺はあったはずだが、不測の事態にもアスリートのメンタルは想像以上に強かった。
「タフな選手ほど勝てるなと思った。日本には素晴らしいトレーナーさんとかが揃っており、それが私たちの強み。そこを自信にしました」
矢田は逆境をむしろポジティブに捉えて、翌朝のレースに臨んだ。
廣中も同じようにポジティブな感情に切り替えていた。
「思ったより冷えちゃってお腹が少し痛くなったのはあったんですけど、すぐに再レースの時間が出たので、早めに帰って備えることができました。午前中のレースはなかなかないので新鮮で、逆に緊張がほぐれる要因になり、このアクシデントを“楽しもう”といった気持ちに切り替えられたのがまた良かったかなと思います」
ナーバスになるどころか、驚くことに、“楽しもう”という気持ちの余裕さえあった。
こうして迎えた異例の再レースは、前夜から一転して、強い日差しが照りつけるなか行われた。それでもレース前半は前日をなぞるかのような展開となり、1600mを過ぎて、またしてもカザフスタンのD.ジェプケメイとバーレーンのV.ジェプチュンバが飛び出した。