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「野球部の暴力事件で濡れ衣を着せられた」張本勲18歳の巨人入団が消えた日…“無名の高卒1年目”がプロ野球で衝撃を与えるまで「野球をやめなさい」母は心配
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岡野誠Makoto Okano
photograph byKYODO
posted2025/05/11 11:00
現役時代、日本球界最多の3085安打を積み上げた張本勲
大金は逃したが、張本は“運”を掴んでいた。実は、入団の際に大きな障壁があった。当時の外人枠は3人で、東映はスタンレー橋本、ビル西田、ラドラを抱えていた。野球協約では、韓国籍の張本も同じ枠に数えられた。そのため、大川オーナーは「養子縁組をしよう」と提案。18歳の高校生が母親に相談すると、一喝された。
〈そんなことをするなら、野球をやめなさい。すぐに広島に帰ってきなさい〉(※6)
張本が事情を話して断ると、大川オーナーが動いた。代表者会議で「15年以上の在住者は日本人扱いに」と提案し、ルールを変えた。張本は晴れて、日本選手と認められた。
酷評の声も…張本18歳の評価
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彼の才能を高く買っていた大川オーナーは春季キャンプ前、岩本監督と松木謙治郎打撃コーチに「開幕までに張本をモノにしてほしい」と告げる。
だが、伊東の1次キャンプでスイングを見た松木コーチは、時間がかかると見た。
〈素質としては、私がこれまであつかった中でも最高級品だが今シーズンすぐにといわれると、ちょっと疑問だ。ただ非常にタフなことと研究熱心なので、これからの岡山でのキャンプとオープン戦でどこまでのびるか楽しみだ〉(※7)
評論家の意見は辛辣だった。
近鉄パールスの監督を務めた芥田武夫は、〈力まかせにバットを振り回しているだけ〉(※8)と斬った。一方、最年長勝利投手記録を持ち、元祖・毒舌解説者の浜崎真二は「殴」という言葉を使って、独特な見方をしていた。
〈つづく〉
※肩書きや名前、記録は当時
※引用元は同連載3回目にまとめて記載
