酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
阪神監督就任の9年前「高知に行くことにしました」藤川球児のサプライズ独立L入団は「名解説者の片鱗が見えていた」取材した記者が感じたワケ
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKou Hiroo
posted2024/10/20 17:00
2015年夏、藤川球児の高知ファイティングドッグス入団は大きな驚きをもって伝えられた
昨年4月29日の東京ドームでの巨人―広島戦。最終回に広島のクローザーの栗林良吏がマウンドに上がった。栗林は3月の第5回のWBCに選出されていたが、故障のため、試合に出ることなく戦線離脱した。
涙をのんだ栗林は、再調整をして開幕には間に合ってクローザーをつとめていたが、この時点で防御率は4点台、苦しい状況だった。3対2で広島がリードした最終回、栗林がマウンドに上がる。
解説の藤川球児は〈栗林投手が本調子でないのはわかっていますが、結果を出していくしかない。アウトを取っていくことです〉と冷静に語った。2死までは取ったものの、岡本和真を歩かせ中田翔が打席に。中田はここで逆転サヨナラホームランを打った。マウンドに崩れ落ちる栗林。場内の大歓声を背景に、藤川は言った。
〈こういう職業です〉
何度も同じ思いをしてきた藤川ならではの、シビれるような一言だった。
監督インタビューでも研ぎ澄まされた言葉だろうが…
藤川球児が阪神の監督になる。野球ファン視点から見ると、今もっとも「光る言葉」を紡ぐことができる野球解説者が1人去ることになる。
そのことに筆者は、感慨を覚えざるを得ない。もちろん、監督インタビューでも研ぎ澄まされた言葉で話はするだろうが――「解説者・藤川球児」に対する未練は大きい。