酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
阪神監督就任の9年前「高知に行くことにしました」藤川球児のサプライズ独立L入団は「名解説者の片鱗が見えていた」取材した記者が感じたワケ
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKou Hiroo
posted2024/10/20 17:00
2015年夏、藤川球児の高知ファイティングドッグス入団は大きな驚きをもって伝えられた
この試合、藤川は4回を投げて1失点で降板した。
余談ながら、ラシィナはこの試合に出た選手の中で、唯一、今も現役でプレーしている。今年は高知ファイティングドッグスのキャプテンを務めた。日本語もペラペラである。
試合後、藤川はこのように語った。
「いつもそうですが、僕は応援してもらえる環境で野球ができています。自分は支えてもらっています。それが高知であろうが、甲子園であろうが、アメリカではほとんどなかったと思いますが(笑)」
「(スカウトが来ていたが、アピールする気持ちは?との問いに)ないですね、僕は野球選手なんで、グラウンドで精いっぱいやっているだけです。僕はどんな試合でも勝つために投げているので、評価を貰うというのは違います」
こんなに明晰に、自分の考えを述べることができる選手がいるとは――と筆者は心底、感動したのを覚えている。
独立リーグでの冒険は貴重なものだったのだろう
藤川の高知での成績は6試合2勝1敗、33回47奪三振6与四死球、自責点3、防御率0.82。9月7日の香川戦では完封勝利も記録した。
藤川は翌年、阪神に復帰。当初は先発で投げたが再びセットアッパー、クローザーとして活躍し、36歳から40歳までの5シーズンで220試合18勝13敗23セーブ61ホールド、306奪三振132与四球、防御率2.96を記録。速球は150km/hフラットになったが、それでも打者の手元でホップして空振りを奪うことができた。
恐らくひと夏の独立リーグでの冒険が、藤川球児に「精気」を取り戻させたのだろう。
“解説者”としてシビれるような言葉
引退後の藤川球児は、解説者となった。筆者は藤川球児こそが、当代最高の野球解説者だと思っている。
投手が投げる1球ごとの意味、次の球の予想、打者、投手の心理を刻々と解説する。いわゆる「予想」もよく当たるが、それが意味あるのではなく「プロ野球はこう見るのだ」という見方をはっきり示しているのがすごい。彼の解説を聞くたび、そのわかりやすさに陶然となった。