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「もう、おまえしかいないから」“辞退者続出”井上尚弥とのスパーで呆然「爆弾のようなパンチ…ガードできない」柏崎刀翔が味わった“最大の衝撃”
text by
森合正範Masanori Moriai
photograph byJIJI PRESS
posted2024/10/11 11:44
2014年4月、井上尚弥はアドリアン・エルナンデスを破りWBC世界ライトフライ級王座を獲得。柏崎刀翔はスパーリングでその“異次元の成長”を体感していた
「おまえしかいないから」井上尚弥とのスパーが組まれ…
柏崎は全日本を制し、日大卒業後、自衛隊体育学校に入隊できることになった。
2013年の全日本選手権はシード選手として2回戦から登場。京口紘人(大商大)、田中、寺地といった強豪選手を次々と破り、全日本連覇を果たす。2012~13年にかけて、ボクサーとして、一つのピークを迎えた。
井上とは試合後も何度かスパーリングで拳を交えた。ボディで倒されたこともあれば、大学卒業に向けて全力で単位を取っている最中に、井上の弟・拓真と4ラウンド、続いて井上と4ラウンドの地獄のような1日を過ごしたこともある。最も脳裏に焼き付いて離れないのが、最後の対決から1年半後、2014年前半のスパーリングだ。
井上陣営は多くの選手からスパーリングを断られていた。柏崎は自衛隊の指導者から「もう、おまえしかいないから。行ってくれ」と告げられる。全日本2連覇に加え、アジア選手権で銅メダルを獲得し、さらに自信をつけ、勢いよく大橋ジムへと乗り込んだ。
対峙してパンチを放った瞬間、衝撃が走る。打ったはずの柏崎が弾き返された。そして、食らったことのない「爆弾みたいなジャブ」が飛んでくる。リング上にはこれまでとは別人の井上がいた。
「体の厚みがすごくて、打ってもびくともしない。打った方が崩れる。そして、爆弾のようなパンチに、反応してパーリングをしても手を飛ばされて、食らうんです」
自衛隊のコーチは呆気にとられ、顔にあざができた柏崎に向かって言った。
「おまえのこと、結構強くなったと思っていた。アウトボクシングもできるようになったと思っていた。だけど……相手がやばすぎたな」
「やばいっすよ!」
柏崎も思わず言い返した。人間に与えられる時間はみな平等だ。柏崎だって、日々努力を惜しまず、目標に向かって着実に階段を駆け上がってきた。
「同じ期間、練習に取り組んできて、強くなっていたとしても『これくらいのレベルだな』とか『パンチはこれくらいかな』ってあるじゃないですか。あのときの尚弥は普通に練習している人がたどり着ける成長度合ではなかった。本当に規格外でした。普通はちょっとずつ強くなる足し算なんです。だけど、尚弥は掛け算なんですよ。(漫画『ドラゴンボール』の)精神と時の部屋で修行してきた? 界王拳十倍? もうわけがわからなくなりました」
地道に足し算で成長していくのだって難しい。掛け算の井上。なぜそこまで急成長できるのか。柏崎はしばらく呆然と考え込んでしまうほどだった。