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井上尚弥17歳が本気で挑んだ“最大の壁”…「普通にやれば勝てると思っていた」柏崎刀翔はなぜ敗れたのか? リング上で初めて知った“怪物の正体”
posted2024/10/11 11:43
text by
森合正範Masanori Moriai
photograph by
Wataru NINOMIYA/PHOTO KISHIMOTO
「井上は柏崎を一番のターゲットにしている」
柏崎刀翔が「井上尚弥」という名を初めて知ったのは4歳下の弟・天秀のインターハイの結果を見たときだった。
「当時は井上尚弥より、藤田兄弟の健児が騒がれていたんですよね。だから『ああ、井上という強い子がいるんだ』くらいで、まあ勝てるかなって思っていましたね」
井上と同じ学年にライト級の藤田健児(岡山・倉敷高)がいた。高校2年生の2人が全日本選手権に出場することになり、注目を二分する。
2010年11月、山口県上関町民体育館での全日本選手権。
「どうやら井上は柏崎を一番のターゲットにしているらしい」
柏崎の耳に、井上陣営が自分を最も研究しているという情報が入ってきた。柏崎も会場で井上の初戦を分析した。
「パンチはあるけど、線が細い。前後の動きがメインで、横の動きとか、中に入ると弱いかも。まだ高校生だし、普通にインファイトでがっつりやれば勝てるな」
そんな印象を抱き、井上の準々決勝にも目を向けた。対戦相手は柏崎もよく知る華井玄樹(東農大)だ。すると、リング上で交わされている不思議な光景が目に入ってくる。華井は相手のパンチを弾き返すパーリングで反応しているはずが、なぜか井上のパンチを弾き返せず、全部被弾している。
「華井はパーリングがうまいのに、何をやっているんだろうか……」
そう思いながら、試合を見つめていた。翌日、大学生を連破して勝ち上がった井上と準決勝で対峙する。「優勝候補」対「高校2年生」。会場には“普段1ラウンド2分で試合をしている高校生なんかに負けるはずがない”という雰囲気が充満している。柏崎はリングに上がった井上の体つきを見て、パンチの強さを予測した。