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「先生、井上尚弥と対戦してるんですか!」アマ日本最強ボクサーが高校教師に…いったいなぜ? 柏崎刀翔が生徒に伝える第一声「どうも拳闘馬鹿です」
posted2024/10/11 11:45
text by
森合正範Masanori Moriai
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なぜアマチュアのトップ戦線で闘い続けたのか
28歳までアマチュアボクシングで好きにさせてもらった。もう指導者になろう。福井・羽水高校に赴任した。昨年、国体の本戦出場を決めるブロック国体に臨んだのが最後のリングとなった。
幼い頃からプロを目指し、世界チャンピオンになるのが夢だった。幾度となくプロから誘われた。だが、岐路に立つと必ずアマから新たな提示があり、心が引き戻される。五輪を目指し、全日本で優勝3回、準優勝4回と10年以上もトップ戦線で闘ってきた。なぜ、こうも長く続けられたのだろうか。
「僕はなにか納得がいっていなかった。結局優勝しても、強い奴がいたら負けるよね、みたいな。要所要所でメンタルでやらかすし、圧倒的ではなかった。全日本の川内(将嗣)さん、村田(諒太)さん、清水(聡)さんとか『絶対王者』じゃないですか。僕はそこにたどり着けずに終わっている。まだ日の目を見ていない。僕は見たんですかね?」
果たして頂上からの景色を見たのだろうか。てっぺんに立ち、眩いばかりの光を浴びたのだろうか。ライバルの原隆二が目の前から去り、林田太郎が退き、井上尚弥がプロに行ったから、たどり着けた頂上なのか。もしかしたら、あれが頂だったのかもしれない。だが、まだ上があるような気がした。だから登り続けた。
もう一つ、井上とのあの「掛け算」のスパーリングを体感した日を境に、柏崎は新たなものを追いかけ始めた。
「あのスパーが一番の衝撃でした。どう取り組めばああなれるんだろうと。僕は割と試行錯誤しながら練習していたんですけど、あの境地にはたどり着けなかったですね」
自分にもいつか、あの「掛け算」が来るのではないか。キャリアの中盤以降は、考え、試し、挑み続けた日々だった。