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「もう、おまえしかいないから」“辞退者続出”井上尚弥とのスパーで呆然「爆弾のようなパンチ…ガードできない」柏崎刀翔が味わった“最大の衝撃”
text by
森合正範Masanori Moriai
photograph byJIJI PRESS
posted2024/10/11 11:44
2014年4月、井上尚弥はアドリアン・エルナンデスを破りWBC世界ライトフライ級王座を獲得。柏崎刀翔はスパーリングでその“異次元の成長”を体感していた
ロンドン、リオ、東京…阻まれ続けた五輪への道
2015年の全日本選手権は準優勝ながら、柏崎がリオ五輪の予選出場選手に抜擢された。しかし、2016年6月、アゼルバイジャンでの世界最終予選で敗退。リオ五輪を逃した。
「ああ、終わった……。やっぱオリンピックは難しい」
そう思ったとき、日本から電話がかかってきた。2018年の福井国体に向け、教員として働きつつ、福井で強化選手にならないか、との誘いだった。プロのジムからいくつもオファーを受けている。高校時代のライバルだった原は騎手からボクシング界に舞い戻り、すでに世界戦を経験。拳を交わした寺地もプロで結果を出し始めていた頃だった。
だが一方で、どうもプロの待遇面が気にかかり、未来を描けない。教員になりたい気持ちもあった。2018年の福井国体後にプロ転向しても遅くはない。そう考え、アマチュアボクシングにとどまる決断をした。
福井南特別支援学校の教員として臨んだ福井国体の決勝では、高校3冠で勢いのある重岡優大(拓殖大)を退けて優勝し、役目を終えた。1カ月半後の全日本選手権で花道を飾ろうと出場した。すると、勝ち上がり、決勝で田中と向かい合う。俄然気持ちが入った。田中の懐に入って有効打を当て、日本一に返り咲いた。前回優勝から5年の月日が経っていた。
「あれだけ優勝できなかったのに……。僕からしたら、あそこからはボーナスステージです」
全日本は12、13年に連覇を遂げ、14年は欠場、15~17年は3年連続で日大の後輩・坪井智也に阻まれ2位だった。
いきなり東京五輪が視界に入ってきた。その後のアジア選手権で銅メダルを獲得。世界選手権にも挑んだ。五輪の本番会場である東京・両国国技館で開催されたプレ・オリンピックにも出場し、銀メダルを獲得。井上に屈したロンドン、最終予選で逃したリオ、3度目の挑戦で五輪が目の前にある。
だがしかし、代表選考会を兼ねる2019年全日本選手権の準決勝で敗れた。やはりここ一番になると勝てない……。ボーナスステージは終わりを告げた。その直後、携帯が鳴った。