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《単独インタビュー》中上貴晶「ダメ出しもしたが感謝しかない」MotoGP残り8レースのいま振り返るホンダへの思い
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2024/09/05 11:02
シーズン途中にテストライダーへの転身を表明した中上だが、その表情は明るい
4歳でポケバイとカートを始めた中上は9歳のとき、千葉県の茂原サーキットで午前中にポケバイ、午後はカートに乗って「さあどっちにする?」と問われた。カートレース経験者で息子をF1ドライバーにしたかった母親に決断を迫られたのだと笑う。中上は「乗ってて楽しい」バイクを選び、世界に挑んでMotoGPまで駆け上った。
「MotoGPでは、もう少しで表彰台というレースが何回もあったし、ポールポジションも取れた。この7年間でホンダのいいときも、そうじゃないときも経験することになった。オートバイのレースは道具を使うスポーツで、ライダーの能力だけが結果を決めるわけではないし、自分がどんなに良くても運に見放されることもある。言えばキリがないけど、自分に対してはやれることをしっかりやってきたという気持ちです」
好きな言葉は「日々精進」。憧れのバレンティーノ・ロッシ、天才ライダーのマルク・マルケスと一緒にレースを戦ってきたことがすごく嬉しいと語る。
最後まで目指すホンダ勢トップ
「エアロがいっぱい導入される前のMotoGPマシンが好きですね。乗っていて楽しかったし、ライダーの違いも出せた。とにかく面白かった。22年以降はエアロがいっぱいでコンセプトも変わった。去年と今年はベストなバイクじゃなかったから、チームに対して臆さず相当なダメだしもしてきた。反対に良くなれば良くなったと、感じたことを素直に伝えてきた」
引退発表が行われたアラゴンGPで、中上はホンダ勢トップの12位でゴールした。その後、ライバルの規定違反などで11位にポジションを上げた。「トップ10が見えていたので悔しいけど、スタート前から今日はホンダで1番になれると思っていた」と語る。レギュラーライダーからテストライダーへの転身が決まったことで、すべてのプレッシャーから解放されたのだろうか。どこか伸び伸びと走っているように見えた。
「ホンダとレースキャリアをともにしてきた。7年間MotoGPクラスで戦えたのは自分の実力だけではないし、ホンダとHRCのサポートがあったからこそ。感謝の気持ちしかない。来年から第二の人生が始まる。できるだけ長く、走れるだけ走りたい」
中上貴晶がレギュラーライダーとして走るのは、残り8戦である。