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《原田哲也の悪夢再び》Moto3の佐々木歩夢、悪質な妨害でタイトル獲得ならずも、世界のレースファンは絶賛
posted2023/11/22 11:01
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph by
Satoshi Endo
第19戦カタールGPのMoto3クラスは、タイトルに王手をかけていたジャウマ・マシアが優勝してチャンピオンとなった。一方、総合2位だった佐々木歩夢は6位。最終戦バレンシアGPでの逆転に闘志を燃やしていたが、今年のタイトル争いに決着がついてしまった。
戦いを終えたピットに、重々しく、そしてやりきれない空気が漂う。チャンピオンがかかっている戦いで、マシアとチームメイトのエイドリアン・フェルナンデスが走路妨害を繰り返したからだ。だれが見ても意図的としか思えない、スポーツマンシップに欠ける行為だった。だが、ブレーキングミスを装った2人の危険な行為に対して、スチュワードは警告をしたのみ。ペナルティが出されることはなかった。
現在、Moto3クラスは、ホンダとKTM(ガスガス、ハスクバーナ、CFモトはKTMのOEMで同じマシン)の一騎打ち。エンジン回転数の制限など厳しい車両規定の中で、毎戦、壮絶な優勝争いとなる。カタールGPでもトップグループが十数台に膨れあがるなか、ルサイル・インターナショナル・サーキットを得意とする歩夢は、積極的に前に出る作戦をとった。
その歩夢を徹底的にマークしたマシアは、コーナーでイン側に入ってブレーキングを意図的に遅らせることで歩夢の行き場を失わせ、2度にわたってポジションを後退させた。この走路妨害により歩夢はトップから5番手前後までポジションを落としたが、すぐにリカバリーしてトップに浮上した。
そんな緊張感が漂う戦いのなか、ラスト3周となった14周目の6コーナーでフェルナンデスが歩夢のインに入ってアクセルを戻すという悪質な妨害を行い、歩夢は10番手以下にダウンした。
絶望的なポジションに落ちた歩夢はファステストラップを更新しながら猛列に追い上げたが、6位でフィニッシュするのがやっと。念願のタイトル獲得のチャンスを逃すことになった。
悔しさを押し殺して絞り出した言葉
ピットに戻ってきた歩夢をチームスタッフが声もなく出迎える。歩夢のレースを支えてきたグエンダリン・メルセデス・グリフィスさんが悔しさを堪えきれず大粒の涙を流し、歩夢はうっすらと悔し涙を浮かべた。普段は泣き虫の歩夢だが、ここまであからさまに妨害されて呆然としたのか、感情を爆発させることはなかった。それから30分ほど後、気持ちが落ち着いたであろうタイミングで「いま、話せる?」と声をかけると、「はい、いいですよ」と歩夢は話し始めた。