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ホンダのMotoGPエンジンを外国人が設計…「エンジンのホンダ」が下した決断は吉か凶か? 最速エンジンをつくったエンジニアの実力とは
posted2025/07/02 11:00

苦戦が続く2025年型RC213VとHRCのエース、ジョアン・ミル
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遠藤智Satoshi Endo
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Satoshi Endo
第9戦イタリアGP、そして第10戦オランダGPと続いた今季初の2連戦で、ホンダはトップ10フィニッシュを果たせなかった。今季、復活の気配を感じさせてきただけに「一体どうした」という声が聞かれた。
そんな矢先、KTMのMotoGPエンジンを設計したことで知られるクルト・トリブがホンダに移籍することが決まった。すでにオランダGP開催中に「移籍濃厚」と報道されていたが、関係者の話をまとめると早ければ今シーズン中にもホンダでエンジンの設計を始めるのではないかと言われている。2027年にはレギュレーション変更によりMotoGPクラスの排気量が1000ccから850ccに下げられるため、850ccのニューエンジンの設計にかかわることは間違いない。
これまで長らく「エンジンのホンダ」と言われてきたが、こうして外国人のエンジニアと契約したのは、少なくとも僕がグランプリを転戦するようになってからの36年間では聞いたことがない。パドックの一番の関心事はもちろんライダーの動向だが、今回のトリブの移籍劇は「ホンダのエンジンを外国人が設計する」という点で、マルク・マルケスがホンダを離れてドゥカティに移籍したのと同じくらい衝撃的だ。
MotoGP最速エンジンをつくった男
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ドイツ人のトリブとはどんな人物なのか。もっとも知られているのは1990年代にBMWのF1エンジン開発を担当したこと。その他、イルモアでF1とCART、アウディの耐久レース用エンジンを設計するなど大きな功績を残してきた。
2000年代になると2輪に活動の場を移し、KTMのオフロードマシン、Moto3エンジン、MotoGPエンジンを担当。Moto3ではそれまで圧倒的な強さを見せたホンダを打ち破り、MotoGPクラスではタイトルこそ獲得していないが(これまで通算8勝)、最速エンジンの設計者として知られている。現在、MotoGPマシンの最高速記録は2023年のイタリアGPでKTMのブラッド・ビンダーがマークした366.1km/hで、ドゥカティのホルヘ・マルティンがマークした363.6km/hをブレイクしている。