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甲子園の風BACK NUMBER
根尾昂、藤原恭大…大阪桐蔭“黄金世代”を「最も追い詰めた」“偏差値68”府立高監督がなぜ野球インフルエンサーに?「学校に迷惑をかけましたし…」
text by
清水岳志Takeshi Shimizu
photograph byHideki Sugiyama
posted2024/08/18 11:00
4人がプロ入りした2018年の大阪桐蔭。甲子園春夏連覇の偉業とも相まって「黄金世代」と言われるが、府立高に苦しめられた一戦もあった
4年間の軟式野球部の顧問を経て23年に念願の硬式野球部の監督に就くことになっていた。ただ、寝屋川から達が異動してくる、という情報が3月にもたらされる。達の名前は府内の体育系の教師の間ではとどろいていたから自分の処遇はどうなるのか。だが、高校の恩師からの情報では「野球部に携わらないらしい」と知らされ、野球部監督に正式に就任した。
同じ体育教師、教官室では机を並べる。達の知見を授かりたいと思うのは後輩としては当然だった。
「異動されたしょっぱなに飲みにお誘いしました。惜しむものはないから何でも聞いて、と言っていただきました」
テレビで野球中継を見ていて気になったことをスマホにメモして翌日、達に尋ねる。
「朝、椅子に座る前に、おはようございます、野球談議していいですかって。野球の話は明確に答えが返ってくる。ためになることばかりです」
春季大会、小宅は監督になって4大会目にして初めて公式戦で勝利した。次に対戦するであろう私学の試合を一緒に見に行ってもらって、学ばせてもらったという。投手のクイックモーションのタイムを計って、普通に走れば盗塁可能なことを確認した。二塁盗塁のときはセカンドがカバーに入ることなども頭に入れた。
「見る視点が僕と全然、違ったのでほんとに参考になりました。その後、直ぐに達先生の教え子がまだ3年生で残っている寝屋川との練習試合を組んでいて復習が出来ました」
「達先生の言葉を借りるとできるようになる」
この私学には惜しくも1点差で負けてしまったが、達野球の一部を伝授されたわけだ。
達は言語化が上手いと感心する。
「僕は感覚で伝えてしまうんですが、達先生の言葉を借りて子供らに言うと、できるようになっていく。言葉のチョイスがわかり易くて、なるほどと納得します」
小宅はサインを出さない監督だ。大学でノーサイン野球をやっていて楽しかったからだ。今の都島工の子たちなら、その感覚を面白がってやってくれると思って続けていた。そこに達が企業秘密であろうサインの出し方を教えてくれたという。小宅は考え直してサインを出してみようと思ったそうだ。
「達先生にもサインを出します、って言ったんです。でも、ダメダメ、って。自分が思ってることを今まで通りやらんと、と」
自分で信じる指導を突き詰めていく覚悟を決めた。
<次回へつづく>