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「私が先に泳ぐ!」フランス版小池百合子vs橋本聖子? パリ五輪直前、セーヌ川水質をアピールするパリ市長とスポーツ大臣の仁義なき場外戦
text by
広岡裕児Yuji Hirooka
photograph byGetty Images
posted2024/07/23 11:02
セーヌ川を泳ぐパリ市長、アンヌ・イダルゴ65歳。水はやっぱり濁って見えるが…
ウデア=カステラ大臣は、すぐ下流のアンバリッド橋のたもとで水からあがって、息を整えながら「素晴らしい、なんという幸せ、約束を守った、賭けに勝った。本当に超感動的。セーヌは優しく、それに20度と温かい。素晴らしい」とマイクに答えた。そしてまた、飛び込んだ。まだ水は茶色く濁っている。大臣はすぐに流されていく。流れは相当速いようだ。
問題は水質だけではない
セーヌ川では水質のことばかりが話題になるが、開会式で船のパレードが行われることもあって、水量、流水速度も大きな問題だ。この日の流水量は1秒間に503㎥だった。通常の流水量は毎秒100から150㎥なのだが、500㎥を超えると船はパレードで予定している時速9kmではなく12kmで航行してしまうという。開会式の予行演習も水量増加のために何度も中止になり、ようやく6月17日に当日の半分程度の59隻でできただけだった。
翌7月14日、「国民祝祭日(革命記念日)」にあわせて聖火がパリに来た。いつもはエトワール広場からシャンゼリゼを下るのだが、終点のコンコルド広場がブレイキンなどの会場になっているため、西南のブーローニュの森に向かうフォッシュ大通りで行われた軍隊行進で、リオ大会馬術金メダルのチボー・ヴァレット大佐が馬上でトーチを運ぶ。
そして午後一番に、エトワール広場の特設貴賓室で、公式スポンサーのルイ・ヴィトンの特製トランクから、五輪サッカーチームのティエリー・アンリ監督がトーチをとりだし、リレーされた。
2日間にわたって聖火はパリ中を駆け巡った。いや、正確には、少し離れた警備の警官とスポンサーに囲まれて、歩いた。聖火ランナーの中には、トーチを掲げながらセルフィーを撮る強者もいる。
国会議事堂前ではコンテンポラリー・ダンス、新オペラ座前ではバレエ「白鳥の湖」、テロで89人の犠牲者を出したバタクラン劇場の前では鎮魂のチェロの独奏、ムーラン・ルージュ前のフレンチ・カンカン、ルーブル美術館の中、エッフェル塔の頂上までを走り抜ける。そして14日には市役所前、15日にはレピュブリック広場で夜遅くまで広場を埋め尽くした観客を前にコンサートが行われた。
あまりに盛大すぎて、翌朝は「祭りの後」のようだった。