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「藤井(聡太)戦だけです。こんなことは」今が“最高レーティング”永瀬拓矢、名人・藤井への本音…なぜ負けても「強くなっている実感が」あるか

posted2025/06/22 11:00

 
「藤井(聡太)戦だけです。こんなことは」今が“最高レーティング”永瀬拓矢、名人・藤井への本音…なぜ負けても「強くなっている実感が」あるか<Number Web> photograph by 日本将棋連盟

藤井聡太と永瀬拓矢の名人戦第5局

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大川慎太郎

大川慎太郎Shintaro Okawa

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日本将棋連盟

藤井聡太七冠(22歳)に挑み続けるためのモチベーション、その根源とは。絶対王者に挑んだ永瀬拓矢九段(32歳)が名人戦を終え、来たる王位戦に向けて語りつくす。〈NumberWebノンフィクション。初出以外は棋士の段位・称号は省略/全4回。第2回へつづく〉

「名人戦で勝てば…」永瀬の素直な目標

 深夜の将棋会館の玄関に、永瀬拓矢の明るい声が響いた。

「名人戦第5局で藤井さん(聡太竜王・名人)に勝てば、レーティングが初めて2000点を超えるんですよ。何とか達成したいですね」

 5月26日。竜王戦ランキング戦2組決勝で高見泰地七段に勝利して、ランキング戦全組で優勝という偉業を成し遂げた。「負けても終わればノーサイドなので」と常々語っている永瀬はどういう状況だろうと快く話を聞かせてくれるが、この日はいつにも増して上機嫌だった。

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 私が永瀬に取材する際には、本人の希望もあって感想戦後に話を聞くのが常だったが、この日は遠慮した。名人戦第5局が5月29、30日に控えているので、あまり遅くなったら申し訳ない。その旨を伝えると、「あ、そうですか」と永瀬は少し意外そうな表情を見せたが、少しだけ立ち話をした。

 私はその名人戦第5局と、6月4日の王座戦挑戦者決定トーナメント準々決勝の伊藤匠叡王戦の取材を担当することになっていた。その旨を伝えると、永瀬はスマートフォンを取り出して、「そういえば今日の勝ちで最高レーティングを更新したと思います」と語った。非公式のレーティングサイトを一緒に確認すると、この日の結果がすでに反映されており、永瀬は1994点で全棋士中2位。1位は言うまでもなく藤井聡太で、驚異の2126点。3位の佐々木勇気八段が1896点なので、上位3人の差はそれぞれ100点ほどあることになる。

 あっさり語っていたが、「最高レーティングを更新」ということは、永瀬史上、今日が最も強いという理屈になる。進化する32歳、恐るべしだ。

「藤井さんと2日制で戦うことで強くなっている」

 私は観戦記者として、永瀬に定期的に話を聞いてきた。

 昨年9月の王座戦第2局で藤井に連敗を喫した際は、「漆黒の世界に戻らなければいけない、人間の感覚を捨てなければいけない」と悲痛な叫びを漏らしていた。だが今年の王将戦第3局の後では、3連敗していたにもかかわらず声色が明るく、前向きな話をしていたのが印象深かった。理由を尋ねると、「藤井さんと2日制で戦うことで、自分が強くなっている実感があるので」と答えが返ってきた。

 その感覚は現在も進行中であり、数字上でも証明されたことになる。

【次ページ】 「勝利の紅白うな重」に、おっと思ったワケ

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#永瀬拓矢
#藤井聡太

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