炎の一筆入魂BACK NUMBER
首位カープを支える救援投手陣が心に刻む「減らす勇気」とは? ブルペンでの球数を減らして現れた大きな成果
posted2024/07/01 11:00
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
JIJI PRESS
書店に行けばタイトルに「勇気」という言葉が使われた書籍が目に留まるが、今季セ・リーグ首位を走る広島ブルペンに浸透しつつあるのは、「減らす勇気」だ。
新井貴浩監督が就任した昨季から、救援陣の球数を試合だけでなくブルペンでの準備も含めて管理している。
近年は投手の分業制が明確化され、先発の球数も100球前後を目安とされる傾向がある。完投数は減り、規定投球回に到達する先発も少なくなった。その分、負担は救援陣に回る。
昨季から一軍担当として体制を支える菊地原毅投手コーチは言う。
「自分も経験があるけど、投手はやっぱり数を投げれば安心するところはある。でもブルペンの数球を減らせれば、1年を通して見たときの負担は違う」
現役時代の2001年に当時の日本記録に並ぶシーズン78試合に登板し、オリックスへ移籍した05年には最優秀中継ぎ投手にもなった経験を選手に伝えている。
救援投手陣の過酷な毎日
救援投手は酷なポジションだ。一軍にいる限り毎試合に備えなければいけない。毎日ブルペンで待機し、出番はいつ巡って来るか分からない。安定した投球を続けていた先発が突如乱れて急ピッチで準備することもある。先発が立ち上がりから乱れれば序盤から準備しなければいけないし、登板間隔が1週間以上空くこともある。投球練習を終えて臨戦態勢を整えても、出番が巡って来ないことは珍しくない。かと思えば、一度気持ちをリセットしたのに再び準備することもある。ブルペンの電話が鳴り、「行ってくれ」と言われれば行かなければならない。
ブルペンでの球数を減らせれば負担も減ることを頭では理解していても、不安がよぎれば投球にも影響する。すべての投球が勝負球となる救援投手は相手にわずかな隙も見せられない。今季からブルペン担当に復帰した永川勝浩投手コーチは、菊地原コーチとともに救援陣の背中を押している。
「“減らす勇気”をもてるマインドになってもらうために、伝えられることは伝えたいと思っている。みんなそうだけど、最後は自分がマウンドで成功しないと分からないと思うから、教えるのではなく、雑談の中で分かってもらえるように。彼らの人生は今年だけじゃなく、来年も再来年も、その先もあるんだから」
球数減の目的は長丁場のシーズンで限られた戦力を最大限に生かすことだが、同時に選手個々のためでもある。目の前の試合にすべてを注ぐように身を削って投げるようでは、あまりにも代償が大きい。