大谷選手は「漫画の幅を広げてくれる」

「大谷選手のような我々の想像を超えた存在って、漫画の幅も広げてくれるんです。おかげで高校生が160kmを出すこともリアルな話として描けるようになったし、MLBのホームラン王を目指す話だって絵空事ではなくなる。

　逆に野球漫画の世界だと、もうおいそれと『そんなこと絶対無理だよ！』って言えなくなっていますよね。大体の『無理』は達成されてしまいましたし、現実が漫画の先を行っていますから。その意味で言うと、作中で高校生の中西球道に163kmを投げさせた水島新司先生はやっぱりすごかったと思います（笑）」

「想像を超えた存在」である大谷選手　©Nanae Suzuki

　現実が漫画の先を行く世界――。

　そんな令和の時代だからこそ、クロマツさんは「読者の方々が思ってないような角度から成功する話は描いてみたい」と語る。

「もう大谷選手って、1シーズンの成績以上に現役時代トータルでどれだけのことを成し遂げるかという選手になってしまっていると思うんです。一方で、実際にそういうことをするのが良いかはともかくとして、1シーズンだけに懸ければ大谷選手を上回るようなインパクトを残せる選手もいるはずだと思っていて。アンダースローで160kmが出せる、でも1シーズンしか持たない……みたいな（笑）。大谷選手って弱点がないじゃないですか。でも、弱点はあるけど、それを他のもので凌駕して何億も稼ぐというのも、やっぱり夢がある。

　社会人野球で燻ぶっていた選手が、全然評価軸の違う独立リーグに行って評価を受けて、じゃあメジャーに……みたいな成功譚とかは、漫画らしいですよね。到達点はすでに大谷選手に描かれちゃってるんですけど、そこまでのプロセスの中でフィクションならではの世界観を活かした野球の人間ドラマを伝えられたら良いなと思っています」

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