近鉄を過ぎ去ったトルネードBACK NUMBER
ドジャース同僚がキャッチボールすら拒否、食堂も出禁…野茂英雄がメジャー1年目に経験した「スト破り選手の1軍昇格事件」
text by
喜瀬雅則Masanori Kise
photograph byKoji Asakura
posted2024/06/02 11:03
野茂英雄のメジャー1年目は選手の労働組合からすればスト明けのシーズン。そのストを巡っての思わぬ余波が1995年の夏にあった
「選手会にとっては不幸なこと。彼はピケラインを破った選手。ベンチ入りするのは構わないが、ユニオンのメンバーではない」
選手たちのミーティングでは、この日の試合をボイコットする声も上がったという。「ペナントレースに勝つためには仕方がない」とバトラーがまとめる形で、とりあえず最悪の事態は回避されたが、ミーティングが終了したのは練習時間が残り20分を切った頃だった。
野茂に聞いた「代替選手への思い」
もちろん、日本のメディアとしては野茂の反応を取らなければならない。
“再会初日”の挨拶もないままに「スト破りの代替選手が入って来たことを一選手としてどう思うのか?」という、何ともシビアな質問をぶつけることになった。
「みんなで話し合って、代表の人がその内容を話したでしょ? 僕もそれで同じです」
野茂もメジャー挑戦を表明した直後、その“代替リーグ”からの誘いもあったと言われており、代替選手となる可能性があった。仮に代替選手となっていたら、ブッシュどころではなく、それこそ“本物のメジャー”に行けなかっただろう。
ブッシュは翌30日の試合に出たものの、試合の前後はそれこそ、ドジャースの選手たちはブッシュを“完全無視”。キャッチボールを務める相手を誰もが拒否し、ブッシュは食堂にも入れなかったという。この異常事態の中、バトラーが選手を代表してブッシュと話し合い、和解したのは8月31日のことだった。
「個人的な感情ではない。代替選手という考え方に反対だった」とバトラーがブッシュに説明すると、ブッシュも「ドジャースに恩返しがしたい」と応じた。
互いの意見をぶつけ合い、バトラーがチーム内の反対派の意見も汲み上げる形で「彼を受け入れる。チームの大事な一員だから」と声明を発表した。
27歳となった野茂をアクシデントが襲う
その“和解の日”のメッツ戦が、野茂の23度目の先発マウンドにして、メジャーで迎える初めての誕生日でもあった。7回まで被安打2、11奪三振。3回にはナ・リーグ一番乗りとなるシーズン200奪三振もマークするなど、5点のリードを背に完封すら視野に入って来た8回、突然のアクシデントが野茂を襲った。
<つづく>