近鉄を過ぎ去ったトルネードBACK NUMBER
ドジャース同僚がキャッチボールすら拒否、食堂も出禁…野茂英雄がメジャー1年目に経験した「スト破り選手の1軍昇格事件」
text by
喜瀬雅則Masanori Kise
photograph byKoji Asakura
posted2024/06/02 11:03
野茂英雄のメジャー1年目は選手の労働組合からすればスト明けのシーズン。そのストを巡っての思わぬ余波が1995年の夏にあった
なぜかしら、スタジアムが静かなのだ。打撃練習をしているのはたった一人だけ。29日の試合時間を間違えた? それとも試合前って、メジャーリーガーは練習しないのか?
ロスの地元紙や日本から持ち込んだ資料を突き合わせ、慌てて情報を整理した。
この日勃発していた問題は、ドジャースで「スト破りの選手がメジャー昇格」。生まれて初めてのメジャー取材、その初日にしては、実にハードで難解な内容だった。
「契約無効」の選手が1軍昇格
開幕前まで続いたストライキ中、オーナー側は選手会サイドをけん制する意味も含め、メジャーを強行開催するための準備として、一部の「代替選手」と契約を交わしていた。一方で、選手会側は代替選手契約に関して「契約無効」の判断を下している。自分たちの要求を貫徹するためのストライキ中に、オーナー側に“協力”した選手に対する、断固たる姿勢を示すための、明確な基準でもある。
ドジャースはナ・リーグ西地区首位を走り、地区優勝を目指してコロラド・ロッキーズとの激しいデッドヒートの真っ最中だった。そんな中、当時の三塁手のレギュラー、37歳のティム・ウォラックが故障で戦線離脱。そこで球団は戦力の補充として、3Aから27歳の内野手、マイク・ブッシュをメジャー昇格させたのだ。
ところが、このブッシュが「代替選手」の契約を結んだ経緯のある選手だった。
これにドジャースの選手会が大反発。ブッシュを除いた25選手が、打撃練習の時間に緊急の選手会ミーティングを開催。もちろん外部をシャットアウトした、非公開の話し合いだったが、議論はかなりヒートアップしたのだという。そして満場一致でブッシュを「メジャーリーガーとして認めない」という方針を確認したのだ。
ボイコットの可能性も
当時、大リーグ選手会の役員でもあった38歳のベテラン外野手、ブレット・バトラーが記者団にミーティングの経緯と、決議の内容を説明することになった。