酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
「巨人エースの系譜」戸郷翔征24歳ノーヒットノーラン…懸念は「球数かさみがち問題」山本由伸の“2回とも102球ノーノー”と比べると?
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byJIJI PRESS
posted2024/05/28 11:00
ノーヒットノーランを達成した戸郷翔征。巨人のエースとして頼もしさを増している
史上初のノーヒットノーランはプロ野球のリーグ戦が始まった1936年9月25日、甲子園で行われたタイガース対巨人戦で、巨人の沢村栄治が記録した。つまり今回と同じカードである。2例目も翌1937年5月1日、洲崎球場で行われた巨人対タイガース戦で、また沢村栄治が記録したもの。
しかし巨人が阪神戦でノーヒットノーランを記録したのは、それ以来。つまり87年ぶりとなる。
沢村栄治、ビクトル・スタルヒン、中尾輝三、藤本英雄、堀内恒夫、槙原寛己、杉内俊哉、菅野智之と錚々たる投手が巨人のユニフォームを着てノーヒットノーランを達成してきた。戸郷もその系譜に連なったといえよう。
ただし、巨人歴代最多勝(221勝)の別所毅彦、沢村賞3回の齋藤雅樹、江川卓などは記録していない(別所は南海時代に記録)。実力に加えて「運」の要素も大きいとわかる。
戸郷で気になるのは…何度かある「極端に多い球数」
戸郷翔征について、気になっているのは「球数」だ。
〈2020年以降の戸郷のシーズン投球数とそのリーグ順位、1イニング当たりの投球数〉
2020年 1814球(9位)/107.2回 16.85球
2021年 2584球(3位)/151.2回 17.04球
2022年 2806球(2位)/171.2回 16.35球
2023年 2715球(1位)/170回 15.97球
2024年 930球(3位)/58.2回 15.85球
戸郷は中6日というローテーションを維持しているので、登板回数は標準的。また、1イニングあたりの投球数も「目標」とされる15球に向けて少しずつ減少していて、効率的な投球になってきている。
しかし戸郷は、シーズンに何度か、極端に多い球数を投げる投手でもある。
〈2023年、両リーグの先発投手の1試合当たりの投球数10傑〉
149球/戸郷翔征(巨)8月3日ヤクルト戦9回○
145球/小笠原慎之介(中)3月31日巨人戦7.2回
143球/戸郷翔征(巨)5月9日DeNA戦9回○
143球/戸郷翔征(巨)6月30日阪神戦8回
140球/戸郷翔征(巨)9月8日中日戦10回
139球/伊藤大海(日)9月25日楽天戦8.1回●
138球/戸郷翔征(巨)6月7日オリックス戦7回○
138球/今井達也(西)4月13日ロッテ戦9回○
136球/今永昇太(De)8月29日阪神戦7回
132球/隅田知一郎(西)8月9日日本ハム戦9回○
10傑のうち5つは戸郷、140球以上投げた5例のうち4例が戸郷だった。
山本由伸のノーノーは2回とも102球。戸郷は?
抜群のスタミナがあるということだろうが、投球数が100球を超えれば投手の肩肘のリスクは幾何級数的に高まるといわれる中で、懸念すべき傾向である。
これは「エースは何球投げても完投するもの」という原辰徳前監督の方針によるものと思われるが、戸郷本人も意気に感じて球数を投げてしまうのだろう。
戸郷はMLB挑戦を考えているといわれるが、この球数はMLBでは必要とされない。