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「三木谷オーナーとの板挟み? ないです(苦笑)」51歳で“転職”…ヴィッセル神戸・永井秀樹に聞くSDの仕事「一番嫌なのは戦力外通告ですね」
text by
栗原正夫Masao Kurihara
photograph byJ.LEAGUE
posted2024/03/30 11:07
2016年、45歳で現役引退。東京ヴェルディの監督を経て、2022年から神戸でSDを務める永井秀樹(53歳)
「もちろん難しさはありました。吉田監督は好き嫌いではなく、毎試合勝つためにベストなメンバーを選んでいた。そのなかで、アンドレス(イニエスタ)にチャンスがなかったわけですから。アンドレスの実績は言うまでもないし、自分も選手、監督を経験してきたので双方の気持ちがわかります。もちろん、アンドレスの獲得に大金を投じた三木谷浩史オーナーの気持ちも考えないわけはないですから。
チームが好調のなか、アンドレスも状況をよく理解してくれました。現場と三木谷オーナーとの間で板挟み? それはないです(苦笑)。プロサッカークラブでは、ときに全員が幸せになれないこともあります。そこを私なりに調整させてもらいました。吉田監督にも『アンドレスを外して、もし負けたら』という覚悟はあったはずです。三木谷オーナーからも『現場に寄り添った形で判断してください』という言葉がありました」
イニエスタは昨年7月14日に登録が抹消され、UAE1部のエミレーツ・クラブへ移籍した。
“失敗してしまった”仕事
これまであまり脚光を浴びることのなかった本多や井出のような選手をピンポイントで補強したことが、クラブ初のJ1優勝への後押しになったことは確かだ。永井は東京V時代にも、たとえばパリ五輪世代の藤田譲瑠チマや山本理仁(ともにシント・トロイデン)らの若手を指導してきた。
SDとしての経験は浅いが、長く現役を続けてきたなかで選手の特性を見抜く力を磨いてきたということだろう。
そんな永井はここまで約2年間のSD生活で“失敗した”経験があると明かす。
じつは一昨季オフ、J2からステップアップした2人の若手有力選手を取り逃したのだという。1人はその後、日本代表にも選出されている。
「J2時代から2人のプレーを見ていて、J1でも通用するだろうと確信していました。ただ、交渉したうえで獲得できなかったのは自分の反省点。提示した条件面では負けていなかったと思いますが、彼らから『僕が行っても、〇〇選手がいるから出られないですよね』『もしもまたスペインから大物選手が来たら……』と言われて。もちろんそこで私も誠心誠意をもって話をさせてもらいましたが、結果的には獲得できなかった。2人との交渉で深く反省して、学びましたね」
選手の獲得、放出……シーズンオフが最も忙しいというSD。そこには辛い仕事もある、と永井は語る。戦力外通告、いわゆる“ゼロ円提示”である。
「自分自身も現役時代に切られる経験をしてきたので。(ゼロ円提示される)選手の気持ちは痛いほどわかります。SDとして言うべきことは言わないといけない。でも選手にきちんと最大限の敬意を持って、クラブからの感謝をお伝えして。正直、一番嫌な、一番辛い仕事ですね」
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「間違いなく、あの日がヴィッセルの転機でした」……続きでは永井SDが、三木谷浩史オーナー“涙の20分間スピーチ”秘話を明かします。
<続く>