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「三木谷オーナーとの板挟み? ないです(苦笑)」51歳で“転職”…ヴィッセル神戸・永井秀樹に聞くSDの仕事「一番嫌なのは戦力外通告ですね」
text by
栗原正夫Masao Kurihara
photograph byJ.LEAGUE
posted2024/03/30 11:07
2016年、45歳で現役引退。東京ヴェルディの監督を経て、2022年から神戸でSDを務める永井秀樹(53歳)
「確かに派手ではなかったですが、パトリッキにはセレッソでの経験がありましたし、齊藤は移籍の交渉の場から目の輝きが違いましたから」
さらに“費用対効果”という点で大当たりだったのが京都サンガから獲得したDF本多勇喜と東京Vから獲得したMF井出遥也だった。現在33歳の本多は京都との契約が満了し、30歳の井出は他クラブへ移籍が決まりかけていたなかでの神戸入りだった。
本多は、開幕からCBとしてスタメン出場。チーム状況によっては左SBでも起用され、32試合に出場しシーズンを通してDFラインを支えた。井出もシーズン序盤からコンスタントにインサイドMFとして起用された。とくにシーズン終盤戦は持ち味の高いテクニックを発揮し、優勝を決めた第33節の名古屋グランパス戦では先制ゴールを決め、勝利に貢献した。
永井は2人についてこう話す。
「ホンちゃん(本多)は(2019年~21年にかけて)私が東京Vで監督をしていたときに対戦相手として見ていた選手なので、昨季の活躍はまったく驚きではありませんでした。(井出)遥也については人間性はもちろん、J1でもプレーできる力があるのはわかっていました。じつは、遥也はあと数日遅ければJ2の他チームへ移籍が決まっていた。そのタイミングで本人から連絡を受けて、すぐに獲得交渉を進めました」
永井は、現場のトップである吉田孝行監督のリクエストを受けたうえで補強を進めると話す。しかし、これまでの神戸の強化戦略とは大きく路線が異なるのは間違いない。
「当時、たとえばDFなら『吉田麻也獲得か?』『酒井宏樹獲得か?』と報道されていましたからね(笑)。実際に誰かから言われたことはないですが、クラブ内でも本多勇喜? 井出遥也? 『えっ、大丈夫なの?』って思っていた人はいたかもしれません。とくにホンちゃんは、センターバックにしては(173cmと)上背がないですからね。ただ、私は絶対にやってくれると確信していました。
2人のコストパフォーマンスがよかった? それは、たまたまです。もちろん、SDとして経営側に立った視点や判断も避けて通れません。ヴィッセルは楽天グループの子会社という視点で考えると、毎年のように赤字を出してしまっています。前年(2022年)と比較すると予算が削減されていたのも事実で、クラブ単体として黒字化していくために費用対効果は重要ですからね」
「三木谷オーナーとの板挟み? ないです(苦笑)」
永井はイニエスタ(39歳)の処遇にも頭を悩ませたのではないか。昨季開幕からチームが好調のなか、イニエスタはケガで出遅れた。数試合に途中出場したものの、ベンチから外れる試合も少なくなかった。
それでも、永井はSDらしく「根回し・交渉・調整」の3つを大事にし、危機を巧みに乗り切った。