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甲子園の風BACK NUMBER
和歌山の無名公立校がなぜセンバツに?「強豪つぎつぎ撃破」「上下関係ゆるく髪型自由」“ロマンしかない”耐久高を訪ねた「エースの名は冷水孝輔」
text by
柳川悠二Yuji Yanagawa
photograph byYuji Yanagawa
posted2024/01/27 06:01
初の甲子園出場を決めた和歌山・耐久高を訪ねた
大きな特徴はその髪型だ。高校野球は全員が坊主頭か、昨夏に全国制覇を果たした慶應義塾や花巻東のように全員が長髪かの両極端であるケースがほとんどだが、耐久の場合は半数が坊主、残りの半数が髪を伸ばしている。高校野球の定型にこだわらず、紀州に生まれ育った純朴な球児が一致団結して、昨秋の快進撃は生まれた。
冷水「自分がしっかりしないと戦っていけない」
勝てばセンバツが当確となる準々決勝の相手は好投手のいる須磨翔風(兵庫)だった。初回に1点を奪い合うと、中盤まで展開が膠着。耐久は5回表に敵失で勝ち越し、8回にも2点を追加して、4対1で勝利した。この試合でも光ったのは冷水の快投だ。冷水は新人戦のコールド勝利を挙げた試合の1イニングを除き、和歌山大会、近畿大会とひとりで投げ抜いてきた。
冷水は小学1年生の時に3歳上の兄・秀輔(現・中部学院大2年。昨秋の明治神宮大会でも登板した)が所属した加茂仲良しクラブで野球を始め、中学時代には有田リトルシニアに在籍し、県内外の複数の高校から勧誘を受ける逸材だった。
「耐久を選んだのは、やっぱりここのOBである兄の影響です。昔から仲が良くて、兄と同じユニフォームを着て、甲子園を目指したかった。このチームは自分がしっかりしないと戦っていけない。前チームからエースナンバーをつけさせてもらっているので、マウンドに上がったら簡単には降りたくないです」
「強い学校とやる方が、力を発揮できる」
耐久ナインの中には、高校卒業後は野球から離れることを決めている選手も多いが、冷水は大学を経てプロ野球選手になることを夢見ている。
「すべては自分の頑張り次第。たとえプロに届かなくても、社会人まで野球は続けていきたい。仮に引退することになったら、野球をやっている人をサポートできるような仕事に就きたいと思っています」
かくして耐久高校のセンバツ出場は決まった。
「正直、1回、勝ちたいです。初戦で神宮大会で優勝した星稜(石川)とやれたら、たとえ負けたとしてもチームとしての現状がわかると思うし、勝てたら大きな自信になる。自分は強い学校とやる方が、力を発揮できるということを近畿大会で学びました」
耐えて久しく、我慢の果てに、ナインは聖地・甲子園で躍動する。