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和歌山の無名公立校がなぜセンバツに?「強豪つぎつぎ撃破」「上下関係ゆるく髪型自由」“ロマンしかない”耐久高を訪ねた「エースの名は冷水孝輔」 

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柳川悠二

柳川悠二Yuji Yanagawa

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posted2024/01/27 06:01

和歌山の無名公立校がなぜセンバツに?「強豪つぎつぎ撃破」「上下関係ゆるく髪型自由」“ロマンしかない”耐久高を訪ねた「エースの名は冷水孝輔」<Number Web> photograph by Yuji Yanagawa

初の甲子園出場を決めた和歌山・耐久高を訪ねた

「市立和歌山や和歌山東とは、毎年、必ず練習試合を組んで胸を借りています。ようやく準決勝で和歌山東の壁を打ち破り、40年ぶり(3回目)の秋季近畿大会出場が果たせました」

部員全員が“通い”、エースの名は「冷水孝輔」

 2018年夏に中谷仁監督が就任した智弁和歌山は県外の生徒も幅広く受け入れている。また、2021年に松川虎生(千葉ロッテ)と小園健太(横浜DeNA)というふたりのドラフト1位選手を輩出した市立和歌山も、近年スカウティングを強化している。そうした事情から、和歌山県内の有望選手は他府県の学校に進学するケースが目立つという。だが、耐久の19人は全員が和歌山県内の球児であり、ほとんどが有田郡市で暮らし、全員が通いの生徒だ。

 和歌山東戦の初回に3ランを放った1年生の白井颯悟もそのひとりで、彼は地元も地元の湯浅中出身。耐久を選んだ理由は「近いから」。また、有田シニアや由良シニアなど中学時代に硬式野球に励んだ球児が多い中、チームのムードメーカーである彼は軟式野球あがりだ。

 そして数少ない有田郡市以外の出身者がエース右腕の冷水(しみず)孝輔(海南市出身)である。耐久ナインの体格は近畿圏の強豪校の選手と比べればどうしても見劣りしてしまうものの、冷水の太ももの分厚さは引けをとらない。MAX143キロを誇る冷水こそが耐久の大黒柱であり、秋の県大会準決勝で和歌山東の強力打線を零封した。

 続く決勝の相手は、準々決勝で市立和歌山を、準決勝で県の高校野球をリードしてきた智弁和歌山を下すという、ジャイアントキリングを二度も達成した田辺高校だった。同じ公立校で、やはり100年以上の歴史を持つ学校である。

強豪ズラリ…どう勝ち上がった?

 監督やナインは、決勝に進出して近畿出場を果たしたことで、「21世紀枠」が脳裏に浮かんだ。だが、田辺高校も1995年夏の甲子園に出ているとはいえ、21世紀枠の候補校になり得る学校だ。冷水が正直な感情を吐露する。

「(先に決勝進出を決めた段階で)決勝の相手が智弁和歌山となれば、圧倒的な差で負けて心が折れることを危惧していた。でも、田辺が相手となり、ラッキーと思う気持ちがあった。でも、智弁和歌山を倒すということは、力があるに決まっています。公立校同士で、練習環境も変わらない。絶対に負けたくなかった」

 この試合でも冷水は3失点完投し、耐久は初めて和歌山の頂点に立った。

【次ページ】 「強さは本物」40年ぶり近畿大会でも…

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