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「マジで大正解でした」Jリーグでコーチ業10年・北嶋秀朗(45歳)なぜJFLで監督に? 今だから言える「相馬さん、あのときはすいません」
posted2024/01/19 17:00
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph by
Kiichi Matsumoto
初の監督就任のチャンスは、本人も予想していない形で訪れた。
2023年11月16日、元日本代表ストライカーの北嶋秀朗が、24年シーズンからJFLのクリアソン新宿を率いることが発表された。
北嶋は23年シーズン、クリアソン新宿のヘッドコーチを務めていたから、いわゆる“内部昇格”である。そうした事例はサッカー界では決して珍しいものではない。
では、何が予想外だったのか――。
「シーズン中の夏頃、遠征に行く空港でナリさんから突然、『来季の監督、どうですか?』って言われて。『早めに北嶋さんを押さえておきたいんです』みたいな感じだったので、『えっ、僕でいいんですか? ナリさんはどうするんですか?』って」
実はシーズン途中に打診されていた
ナリさんとは、18年からクリアソン新宿を率いている成山一郎監督のこと。関西学院大学サッカー部の指揮を執っていた15年にはチームを大学4冠に導き、17年にはJ2・愛媛FCのコーチを務めた経験もある気鋭の指導者だ。
そんな人物からシーズン途中に、監督の座を譲る提案をされたのである。
「僕は一緒に仕事をしながら、ナリさんの監督業に対するこだわりや、監督として生きていくという覚悟をすごく感じていたし、クリアソンにお世話になる際の面談でも、そうした思いを聞いていたので驚きました。そういう型にハマらない打診の仕方が、いかにもクリアソンらしいんですけど(笑)」
14年から指導者の道を歩んできた北嶋にとって、トップチームを率いることは目標のひとつだった。23年シーズンはコーチを務めながらS級コーチ養成講習会にも通い、来たるべきタイミングに備えていたから、その打診は願ってもないチャンスでもあった。
だが、北嶋は即答できなかった。
成山の思いを知っていたことだけが理由ではない。クリアソン新宿というクラブの理念も、北嶋に即答を躊躇わせる要因だった。