「でも、今の会社にお世話になってからはあまり『やっていたら……』とは思わなくなりましたね」

引退後の初観戦で…「ちょっと来い！　声出ししろ」

　志半ばで球界を去ったが、野球や球団が嫌になったことは一度もない。地元の同級生たちと草野球チームを立ち上げ、週末に野球を楽しむこともあるし、古巣の勝敗は自然とスマホでチェックする。

「本当に“かじった”程度なんですけど、最高峰の舞台でできて、一軍も経験できた。引退するとき、プロでお世話になった方、よく話していた人たちとのつながりもなくなってしまうんだろうなあ……と思っていたのですが、辞めてからもつながりがある人も多いです」

　元チームメートたちとのつながりを感じさせるエピソードがある。今後の人生をどう過ごそうかと考えていた4月23日。マツダスタジアムで開催された広島戦で、引退後初めて古巣の試合を観戦したときのことだ。

　ドラフト同期の森敬斗ら、数人の若手には行くことを伝えていたが、いざ球場に到着すると、選手のほとんどが田部の来場を知っていた。そして試合前、現役時代に目をかけてくれた桑原将志から手招きされた。

「クワさんから『ちょっと来い！　声出ししろ！』みたいな流れになって（苦笑）。なんて言ったか全然覚えてないです。本当に即興だったので。ファンの方もたくさんいる中で、ベンチの外から観客の自分が声出しするって、めちゃくちゃ恥ずかしいですよね（笑）」

　まだ慣れないことも多いが、仕事にやりがいも見出した。セカンドキャリアに邁進する“元プロ野球選手”として、静かに意気込む。

「毎年、戦力外通告を受ける選手が今後も出てくるし、選手は皆いつかは野球をやめていきます。解説者になったり、野球一筋で生きていける人は本当に一握り。元プロ野球選手たちに野球以外の職にも目を向けてもらえるように。野球選手だったことがビジネスの場で価値を生めるようにしたいですね」

　“高卒4年目”の社会人、田部隼人が奮闘している。

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