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「単勝1万3790円」ダイユウサクの有馬記念“史上最大の番狂わせ”はフロックではなかった…熊沢重文がいま明かす勝算「どうして人気ないのかな?」
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byJIJI PRESS
posted2023/12/23 11:02
大本命のメジロマックイーンと武豊を破り、有馬記念の歴史に残る大波乱の主役となったダイユウサクと熊沢重文。勝ちタイムは当時のレコードだった
「“無欲の勝利”なんて絶対にない」
有馬記念はツインターボが引っ張るハイペースになった。ダイユウサクは、メジロマックイーンを前に見ながら進んだ。4コーナーでマックイーンが外に進路を取ると、ダイユウサクは内から鋭く抜け出し、追いすがるマックイーンを1馬身1/4突き放し、GI初制覇を遂げた。
「2500mでマイルの切れ味を出すことを狙っていたのですが、切れ味の生きる流れになりましたね。道中、マックイーンをマークするような形になったのは、意識したわけではなく、たまたまです。4コーナーでマックイーンが外に行ったとき、ついて行こうかなと思ったのですが、直後にパッと内があいたんですよ。迷う間もなく内に切り替えることができたのは、体が反応したのか、馬が反応したのか――ともかく、意識して内に入ったという感覚ではなかったですね」
これぞ人馬一体の境地。コスモドリームのオークスも、この有馬記念も、いわゆる“無欲の勝利”ではなく、自信を持って乗った結果の勝利であった。
「ぼくは、“無欲の勝利”なんて絶対にないと思っています。勝算を持って臨まないと勝つことはできない、と。それを表に出すかどうかは人それぞれですが、勝利をつかみとりたい気持ちの強さというのは、どの騎手も高いレベルで横一線だと思うんです」
ダイユウサクは翌92年も現役をつづけたが、6戦して掲示板に載ることができず、秋のスワンステークスを最後に引退し、種牡馬となった。長く走りつづけ、馬齢を重ねてから強くなったあたりもステイゴールドと共通するので似たタイプかと思いきや、そうではないようだ。
「気のいい馬で、人間が仕掛けたら動いちゃうんです。脚の使いどころが難しく、変な動きをしてゴーサインだと思われると困るので、なるべくそっと乗っていました。武器は瞬発力。『ちゃんと見てください、すごく強い馬なんですよ』という感覚でいました。そういう馬が有馬記念をレコード勝ちして、競馬史に残るんですから、面白いですね。だからジョッキーはやめられないんです」
<つづく>