甲子園の風BACK NUMBER
最後まで爽やかだった履正社の夏…「府大会ノーシード」「12連敗の大阪桐蔭戦」「キャプテンの苦悩」“高くはなかった前評判”から目指した甲子園→日本一の未来図
text by
沢井史Fumi Sawai
photograph byNanae Suzuki
posted2023/08/28 11:05
3回戦で仙台育英高に敗れた履正社高。「事実上の決勝戦」との声もあったほどの好カードだった
だが、大阪には大阪桐蔭という大きな壁が常に立ちはだかった。チームとしても、これまで夏の大会に限れば12連敗。決勝で相対した過去4度もすべて敗戦している。特に今年は1年時から世代最強左腕とも言われていた前田悠伍が履正社戦は全て先発してきた。今夏の決勝戦ももちろん先発は前田だった。
「1年の秋からずっと対戦してきて、どの試合でも完璧なピッチングをされてきて……。どの球種もすごい球ばかりでした」(森澤)
決勝戦は4回までに3点を挙げてリードし続けたが、多田監督は最後まで不安を拭い去れなかったという。
「こちらが先制しても終盤に逆転するのが桐蔭さん。今までそんな経験を何度もしてきたし、最後には桐蔭さんの校歌を聞いて夏が終わっていたので……」
ただ、今夏は違った。先発の福田は今までなら四球でピンチを広げて自滅することが多かったが、大阪桐蔭打線にわずか3本しかヒットを許さず、四球を出しても最後まで自分のリズムを崩さなかった。
これまで先輩が何度挑戦しても崩せなかった壁を、苦悩の時を超えて突破した。どん底から這い上がって手にした念願の夏の甲子園への切符。格別の思いを爆発させるのかと思いきや、選手たちにコメントを求められても浮かれた所作は目につかなかった。
「大阪桐蔭に勝っても、ここがゴールではないので」
ゴールは常に「日本一」。力を出し切った仙台育英戦
当時の森澤の言葉には“自分たちが目指すところはもっと先にある”という意志を感じた。チームとしては、4年前、全国制覇した夏以来の甲子園出場。当時の先輩を見て入学した者が多い現チームが目指すのは日本一だった。
これまでミスに泣き不完全燃焼で終えた試合を思うと、ディフェンディングチャンピオンを相手に最後まで互角の戦いを演じたことに、むしろ胸を張っていたかったのかもしれない。
日本一は達成できなかったが、ひとつの足跡を残した2023年夏。
激戦地を揺るがせる履正社の歴史は、これからさらに刻まれていく。