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江川卓のナゾ…“普通ならありえない”ストレートを受けた名捕手「本当にホップしていた」怪物が顔色を変えた“岡田彰布と原辰徳”「伝説の対戦」
text by
岡野誠Makoto Okano
photograph byJIJI PRESS
posted2023/08/28 11:03
怪物・江川卓はどんなボールを投げていたのか? 大学時代にバッテリーを組んでいた袴田英利が明かした
ストレートとカーブで通用していた江川にシュートの必要性を感じさせる打者が現れた。2学年下の岡田彰布(早稲田大学→阪神)である。3年秋のリーグ戦、10月17日から優勝候補の法政と早稲田が対戦した。1回戦、岡田は初対決の江川から猛打賞を記録。そのうち2本が二塁打だった。
「大学野球は1カード3連戦で、勝ち越したチームに勝ち点が与えられる。いつも卓は初戦に先発、2戦目はリリーフで準備、1勝1敗なら3戦目に先発しました。でも、この時は初戦に負けた翌日も先発したんですよ」
2回戦、法政は袴田の2ランで先制すると、江川もレフトスタンドに放り込み、5回までに9対0と勝負を決めた。五明公男監督に「休むか?」と打診された江川は、「5回投げるのも9回投げるのも同じですから」と続投を志願。前日、痛い目に遭った岡田を4打数1安打2三振と抑え、完封を飾った。
3回戦も先発した江川は岡田を3打数ノーヒットに封じ、1失点完投勝利。3連投3完投344球を放る力投で、早稲田との直接対決を制した法政は勢いに乗って2季連続優勝を決めた。
「卓は初戦の猛打賞が頭から離れなかったようで、岡田対策で『シュートに磨きをかける』と言ったんです。インコースに強かったので、シュートで詰まらせようと考えたのでしょう」
「卓は手が小さいんですよ」
翌春のリーグ戦前、江川は自らの球種を〈ストレート、カーブ、それにシュートとドロップ気味のボール。この四種類です〉と話している。記者に〈シュートを投げる必要があるのか〉と聞かれると、〈いくらなんでもストレートとカーブだけでは打たれますからね。球種はあるぞ、と見せるんです〉(※2)と答えた。
5月14、17日の早稲田戦で江川は岡田を計7打数ノーヒットに抑え、前年の借りを返した。このシーズン、登板8試合全て完投で8勝、防御率0.50と格の違いを見せ、法政は3季連続優勝を果たした。
「本人はシュートと言っていましたけど、あまり曲がっていなかった。岡田には普通の内角ストレートに見えたと思います。卓は手が小さいんですよ。(手の大きい)僕の第一関節がないくらいの指でしたから。だから、フォークも投げられなかった。カーブ以外の変化球を放れていたら、もっとすごかったと思います」
慶応の“温存策”にカチン
大学時代、常に冷静沈着な“怪物”が怒りを露わにした試合があった。4連覇をかけた4年秋の慶応との1回戦、江川は打線の援護なく0対2で敗れ、3年秋から続いていた連勝が12で止まった。続く2回戦は5回から救援し、延長15回4対4の引き分けに終わった。後のない法政は3回戦も江川が先発した。