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大ブレークの阪神・村上頌樹25歳「7回完全でも降板」の夜に坂本誠志郎がかけた厳しい言葉とは…“虎の村神様”を導く女房役の「洞察力」
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byJIJI PRESS
posted2023/06/30 11:04
気持ちの良い投げっぷりを見せる阪神・村上
予見していた大ブレーク
村上の大活躍はフロックではない。坂本は2月から予感があった。
沖縄・宜野座キャンプのブルペンで捕球しているとき、ミット越しの感触がいままでとちがった。
「ボール、強いな」
プロの投手であっても、球威が足りなければ、捕手が自らミットを動かし、捕りに行く感覚があるのだという。昨季までの村上がそうだった。今年はちがう。白球をつかみに行く必要がなかった。むしろ、捕球した瞬間、球威にグッと押される感覚があった。昨年、一軍のマウンドにも上がれなかった男が示した変貌の兆しだった。
「(今季初マウンドだった4月1日の)DeNA戦でも150kmが出て、速いなと。ベンチから見ていても速いし、打者も速く感じている。なんか、ちょっと、違うぞ、と。でも、東京ドームで投げたとき、正直、あそこまでの投球は僕も予想していませんでした」
エースの青柳晃洋が不振で二軍調整を強いられ、西勇も開幕直後は乗り切れない投球が続いた。先発ローテーションの戦略を見直さなければいけないピンチをカバーした一人が村上だった。チームの危機を救い、シーズンの序盤戦から首位に押し上げる原動力になった。
岡田阪神Vへの希望
6月13日のバファローズ戦で、村上はエース山本由伸と渡り合った。失策絡みの失点で敗戦投手になったが、8回を4安打9奪三振無四球の2失点。2時間35分の試合時間が、ハイレベルな投手戦を物語る。そして、坂本はこの試合で、山本からチーム唯一の2安打を放ち、気を吐いた。気鋭の若き右腕の覇気。円熟のリードが光る「女房役」の矜持。2人は負けてもやるべきことを果たしていた。これが長丁場を勝ち抜く秘訣だろう。
チームは交流戦から尾を引く貧打とリリーフ陣の不振で、一度はDeNAに首位を譲ったが、すぐに奪回した。同29日、村上は坂本とバッテリーを組んで、再び中日打線を4者連続奪三振など7回無失点で甲子園プロ初勝利を挙げた。村上が投げれば守備も締まり、首位をキープした。このコンビを中心に体現する「守り勝つ野球」が、岡田阪神の行く末を明るく照らす。
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