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大ブレークの阪神・村上頌樹25歳「7回完全でも降板」の夜に坂本誠志郎がかけた厳しい言葉とは…“虎の村神様”を導く女房役の「洞察力」
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byJIJI PRESS
posted2023/06/30 11:04
気持ちの良い投げっぷりを見せる阪神・村上
牽制球で一息入れた後の初球だ。
カーブ。103km。ストライク。
時間が止まった。
人を食ったような、周囲をあざ笑う軌道で、坂本のミットにすとんと収まった。この機に乗じて一気に攻めたい中日打線の意気をそぐ、拍子抜けする1球だった。
なぜ、カーブだったのか。
打ち気にはやる細川は2球後の球でフライアウト。加藤匠馬も一邪飛。その後も、何事もなかったかのように、1つ1つのアウトを重ねていった。
村上は、それほどカーブを使わない。あの日も4回までの46球中、わずかに3球だった。まだシーズン半ばで、これからも対戦を重ねる。坂本は多くを語らなかったが、もっとも打者が想定していない球種で、初球ストライクの先手を取りたかった意図がうかがえる。
ただ1つだけ、坂本は興味深いことを明かした。
「一回、いろんな状況を整理するのに使えるのが、タイミングを外したカーブなんです。相手も、ヒットが1本出て、突っかかってくるところで『アレ……』となる。村上も『ヤバいな』と思ってもおかしくない局面で、一回、落ち着こう、となる。そういう意図もありました」
投手は走者を出せば、リズムが変わる。しかも、村上は12イニングぶりに走者を背負う状況だった。単調になってしまえば、中日打線の勢いにのみこまれる。ともすれば、見落とされがちな「1球のカーブ」が流れを引き戻した。再びメトロノームのように整然とテンポを刻み、9回を2安打10奪三振の完封。10日前、東京ドームのロッカールームで坂本から伝えられた思いに対する回答だった。
プロ初勝利に導いた坂本は感心した。
「あそこでカーブをね、ピュッとストライクを投げられる村上もすごい。打たれたくないと思えば低めにひっかけたり、クイックでモーションが速くて抜ける可能性もありますから」