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大ブレークの阪神・村上頌樹25歳「7回完全でも降板」の夜に坂本誠志郎がかけた厳しい言葉とは…“虎の村神様”を導く女房役の「洞察力」
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byJIJI PRESS
posted2023/06/30 11:04
気持ちの良い投げっぷりを見せる阪神・村上
議論を呼んだ「7回完全の交代」
岡田監督の決断は非情にも映り、論議を呼んだ。だが、いつも冷静で、物事を俯瞰する坂本は、先を見ていた。
「監督はもう1個先の宿題を残してくれたんじゃないかと思ったんです。今年、監督が西勇輝さんに『白黒つけてこい』と言った試合がありましたよね。村上も『最後まで行ってみろ』と思わせる、8、9回を任せられるような投手にならないといけない。最後まで絶対、このマウンドを譲りたくないという思いを持って、これからピッチャーをやっていかないと、成長はないんじゃないか。そういう思いを伝えたつもりです」
あの状況で褒められ、慰められても、言葉が上滑りするだけで、村上にとって気休めにしかならない。肝心なときにだけ、言えることがある。まだプロで1勝もしていない若者に対する厳しめのフォローは、後輩の前途を思えばこその優しさである。
経験豊富な司令塔
プロ8年目。11月に30歳を迎える今季は梅野隆太郎と併用され、序盤戦から先発マスクをかぶって勝利に導いてきた。なぜ、捕手は「女房役」と呼ばれるのか。坂本を見ていれば、理由がよくわかる。
言葉で発奮をうながすだけではない。細心の配球が経験豊富な司令塔の真骨頂である。
あの1球が、あるいは、何者かになろうとする村上の背中を押したのかもしれない。
4月22日のドラゴンズ戦。
東京ドームの快投の余韻は名古屋でもまだ、濃厚に残っていた。立ち上がりを3者連続三振。スピンの効いた速球を投げ、フォークも小気味よく落とす。相変わらず抜群の制球をみせつけ、淡々と無安打無四球のイニングを延ばしていった。9、10、11回……。この日も4回まで完全試合ペースで、登板2戦連続で快挙の期待が高まっていた。
0-0で迎えた5回も難なく1死を奪う。その直後だった。福永裕基にセンター前へクリーンヒットを許した。場内がどよめくなか、打率3割台の細川成也が打席に入った。潮目が変わりそうなムードが不意に立ち現れてきた。