どんなピッチャーだった？

　メガネ姿がトレードマークの杉浦は、“日本一美しい”と言われた、ゆったりと流れるようなフォームのアンダースロー投手だった。

　球種はストレートとカーブの2種類のみ。ストレートは地面すれすれから放たれて、そこから糸を引きながらホップしてくるような快速球。カーブは曲がりが大きく、右打者は背中から曲がってくるので腰を引き、左打者はストライクと思って振ったボールがもう一段曲がって身体に当たることもしばしばだったという。

　バッテリーを組んでいた野村は「全盛期の杉浦ほどボールを受けていて面白くなかった投手はいない。なぜなら、キャッチャーとしてやることがないのである。杉浦の好きに投げさせておけば打球はまともに前に飛ばないし、リードの必要がない」（『プロ野球 最強のエースは誰か』野村克也／彩図社）と評している。

杉浦忠の美しきアンダースロー ©JIJI PRESS

　1959年の杉浦は、130試合制だったシーズン（引き分け再試合の規定により同年の南海は134試合を消化）で、チームの試合数の半分以上になる69試合に登板。38勝4敗という圧倒的な成績で南海を優勝に導いた。38勝もすごいが、先発、中継ぎ、抑えにフル回転した一年を通じて、わずか4敗というのは驚異的である。この負け数は、シーズン30勝以上した投手の中で最少であり、史上最高勝率である。こうして杉浦と長嶋は、日本シリーズで激突することになった。

「プロ野球史上杉浦ただ一人」

　結論から言えば、4勝0敗で南海のストレート勝ちだった。杉浦は、うち3試合に先発、1試合は救援で5回を投げてすべて勝利投手になるという空前絶後の快挙を達成。4試合で終わったシリーズでの4勝は、プロ野球史上杉浦ただ一人である。

　長嶋との対戦も、シリーズ通算12打数3安打。ヒットはすべて単打と、杉浦に軍配が上がった。

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