じつはこのシリーズの全4試合、杉浦は右手中指にマメができて、満足な状態で投げられた試合は皆無だったという。それでも、完封した第4戦は「マメをつぶさないようにゆっくりそーっと投げた。ボールは伸び、カーブは切れた。8分の力で投げた方がよいというのをつかんだ。バッターボックスに誰もいない感じだった」（『僕の愛した野球』より）。

　この試合を観戦していた西鉄の監督・三原脩は、この日の杉浦の投球を評して「もはや人力ではいかんともしがたいものがある」と語った（『天使の相棒 杉浦忠と長嶋茂雄』ねじめ正一／集英社）。

　かの野村克也が「最強投手」と絶賛した事実、そして38勝4敗の成績から考えれば、こう思う人もいるはずだ。「日本プロ野球史上No.1投手は杉浦ではないか」と――。

現役時代に杉浦とバッテリーを組んだ野村克也。後年に「1シーズン限定なら、1959年の杉浦が最強」と評した ©Koji Asakura

史上No.1投手？ 現チャンピオンと比較

　そこで当企画の現チャンピオンである山本由伸（オリックス）と比較してみたい。2人のベストシーズンの成績を比較して考察する（太字は自己最高）。

【1959年の杉浦】登板69、完投19、完封9、勝敗38-4、勝率.905、投球回371.1、被安打245、奪三振336、与四球35、防御率1.40、WHIP0.75

【2021年の山本】登板26、完投6、完封4、勝敗18-5、勝率.783、投球回193.2、被安打124、奪三振206、与四球40、防御率1.39、WHIP0.85

「1959年の杉浦忠」と「2021年の山本由伸」の成績比較

　杉浦の登板数は、山本の2.7倍、投球回は1.9倍、勝利数は2.1倍であるように、時代が大きく異なるため、登板数や勝敗に差が生じる。そのため当企画では打者圧倒度――1試合あたりの被安打数、9イニング当たりの奪三振率、防御率、WHIP（投球回あたり与四球・被安打数の合計）――を重視して比較する。

　まず、1試合当たりの被安打数は、杉浦が5.94、対して山本は5.76と、わずかな差ながら山本がリード。9イニング当たりの奪三振率も杉浦の8.14に対して山本9.57、防御率も杉浦1.40に対して山本1.39と山本が上回った。

　杉浦が山本を圧倒しているのはWHIPのみで、この数字は杉浦の0.75に対して山本は0.85。なお、このWHIP0.75という数字は、これまで当企画に登場した10人の大投手の中でも、金田正一とダルビッシュ有の0.83、沢村の0.84を上回る過去最高の数字である。

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