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「大谷翔平のバントには完全にお手上げです」谷繁元信が徹底解説“あのセーフティ”はなにがスゴいのか?「もし僕がキャッチャーだったら…」
text by
谷繁元信Motonobu Tanishige
photograph byNaoya Sanuki
posted2023/03/18 11:04
3月16日のWBC準々決勝イタリア戦で先発登板した大谷翔平。気迫の投球と頭脳的なプレーで「マイアミ行き」の立役者となった
大谷翔平のセーフティバントは「予想できない」
攻撃の流れを持ってきたのも大谷でした。3回の攻撃、1死一塁からの初球セーフティバント。いくら守備シフトが敷かれているといっても、正直、誰も想像していなかったんじゃないですか。あれだけ熱い投球しているのに、あの場面で意表をつく冷静さも兼ね備えている。打ちにいって凡退しても誰も文句は言わないのに、チームを勝たせるために、あのセーフティバントをやったわけです。どれだけ周りの状況がよく見えているんだ、と。
もし僕がキャッチャーだったら……やっぱり予想できないと思いますね。もう完全にお手上げですよ。「うわ、マジか! やられた……」と。イタリアのバッテリーも、監督のマイク・ピアザもそう感じたと思います。あれは間違いなく大谷個人の判断でしょうね。直後のベンチの様子をカメラが抜きましたが、栗山英樹監督もキョロキョロしていましたから(笑)。なんにせよ、1回、2回の悪い流れを投球で断ち切って、なおかつ打席で流れを呼び込んだ。この両方ができるのが大谷なんですよ。
最初から飛ばして投げていたので、4回途中からスライダーが浮き始めて、5回に2失点してしまったのは仕方がない。相手に流れを渡さず試合を作ってくれたんですから、誰も大谷を責めることはないでしょう。じつに素晴らしいピッチングでした。
村上宗隆の復活で穴のない打線に
もちろん、岡本の3ランもナイスバッティングでしたね。強いスイングをして追い込まれたあと、センターから逆方向を意識しながらスライダーをファウルして、それゆえに次のスライダーがバットにうまく引っかかった、という印象です。「最高です」しか言わない独特のヒーローインタビューもまあ、あれはあれで岡本のキャラクターというか、愛される理由なんでしょう(笑)。
そして誰もが待っていた村上の復活。前回の解説で準々決勝以降のキーマンにあげさせてもらいましたが、2点差に迫られた5回の第3打席、チャンスで初球から打ちにいった。もう腹をくくっていたんでしょうね。攻撃的に振りにいった結果が、左中間を抜けるタイムリーツーベース。あそこで球場が一気に盛り上がって、完全にひとつになったなと感じました。
次の打席も、最初のストライクを叩いてツーベース。ここまで甘い球になかなか手が出ていなかったので、「とにかく振りにいこう」という意識もあったんでしょう。加えて、強化試合から続いていた“小さなズレ”が、打席を重ねるなかでかなり改善されてきた印象です。