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巨人戦解説「40万円」を捨てて…エモやんが出馬を決めた“アントニオ猪木の言葉”、選挙期間中に“まさかの電話”「もしもし、長嶋です〜」
text by
岡野誠Makoto Okano
photograph byShiro Miyake
posted2023/01/17 11:00
田中角栄、アントニオ猪木、長嶋茂雄……江本孟紀75歳の人生を振り返る時、昭和を彩った大物の存在は欠かせない
「噂が出た段階で、テレビや講演など金目の仕事は結構カットになった。当時、フジテレビで巨人戦のナイター中継の解説が1回40万円前後だったかな。講演会は月10回から20回あって、平均1回50万円ぐらい。その金額が突然なくなる。だから、有名人は選挙に出ないんですよ。たとえば年収1億円稼いでいた人が議員になったら、5分の1くらいに減りますから。相当な覚悟がないと、出馬なんてしない。世間はそのリスクをわかっていないですよね」
選挙活動中に…「もしもし、長嶋です~」
まして少数政党であるスポーツ平和党からの出馬は落選の危険性も高く、選挙スタッフの数も少なかった。本当に出馬すべきだったのか――。江本が自問自答を繰り返していた7月初旬、東京・虎ノ門の選挙事務所に1本の電話が鳴った。寂寥感漂う部屋で自ら受話器を取ると、聞き覚えのある甲高い声が響いた。
「もしもし、長嶋です~」
「……え、長嶋さんですか?」
前年の世界陸上で100メートル走を制したカール・ルイスに「ヘイ、カール! ヘイ、カール!」と呼び掛けるなど、文化人として活躍していた長嶋茂雄からの着信だった。
「驚きましたよ。まさか連絡が来るなんて思ってないですから。長嶋さんが『君の応援に行きたいんだ』って。一体、なにがあったのかと。『とんでもございません。ダメですよ、そんなの』って言ったんです。天下の長嶋さんが来るなんてあり得ない。あとで聞いたら、それまでいろんな政党から応援を要請されたけど、全て断っていたらしいんです」
「たまたま通りかかったことにしませんか?」
江本が「お気持ちだけで」と遠慮すると、「……う~ん、どうでしょう。君の選挙事務所の前をね、僕がたまたま通りかかったことにしませんか?」と積極的に提案してきた。