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「じゃあ、5年後はプレミアリーグだね」冨安健洋が“Jリーグ復帰”を目指す同級生にかけた言葉とは?「目標はメッシではなく、ずっとタケ」
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakuya Kaneko/JMPA
posted2022/12/23 11:02
大会前の負傷もあり、万全な状態でW杯に臨めなかった冨安健洋。4年後に向けて再スタートを切った
冨安がトップチームでプレーするようになった高2以降、濱口と一緒にプレーする機会は減っていった。高校卒業を前にトップ昇格を果たし、やがてJリーグを飛び出してベルギー、イタリア、今やプレミアリーグの強豪アーセナルの一員としてプレー。「上に行く選手だなとは思っていたけど、上に行きすぎている」と苦笑いするほど遠い存在になってしまった。
ただ濱口が、日本代表としてW杯に出場した今も冨安に対して変わらない思いを抱けるのは出会った頃と変わらない“タケ”がいるからだ。
「W杯の前に少し会う時間がありました。タケに『今どこでプレーしているの?』って聞かれて、『ヴェロスクロノス都農という九州リーグのチームだよ』と答えたら……『じゃあ、5年後にはプレミアリーグだね』と言われたんです。その時は笑って『それは無理だろ』と返しましたが、あの言葉がなぜか心の奥まで刺さったんです。タケは絶対に人を小馬鹿にするような人間ではない。ふざけたこともそんなに多く言わない。いつも昔のように真っ直ぐに向き合ってくれるタケに、そう言われたことが本当に嬉しかった。今は九州リーグですけど、『5年後って不可能なことではないんじゃないか』って本気で思えましたから(笑)」
濱口が現在プレーする九州リーグはJ5相当。世界最高峰のプレミアリーグなんて、側から見れば夢物語かもしれない。それでも濱口が懸命にサッカーを続けていることがわかったからこそ、冨安は盟友に真剣に言葉を投げかけ、向上心を持つことの大切さを訴えたのだろう。
冨安からもらったスパイクは今も
「ロナウドやメッシを目標の選手として挙げる人って多いじゃないですか。でも僕には、常に一番身近な人間でそういう存在がいる。それは本当に幸せなこと。この幸せを決して無駄にはしていけないんだなと思いました。
今もタケのパスの出し方、ボールの持ち方から身体の向き、ラインコントロールの方法を映像で勉強していますし、それに、今も高校時代の頃にもらったアドバイスが頭に浮かぶんです。『こういうもらい方をしたらテンポが上がるよ』とか。タケの言葉、アドバイスの1つ1つがずっとプレーヤーとしての支えになっていることは間違いないですね」
濱口は、鹿屋体育大学からプロのキャリアを歩み始めた頃に冨安からもらったスパイクを今も大切に履き続けているという。心から尊敬する存在であり、目標であり、師でもある冨安の言葉は今も原動力になっている。
「タケは自分の目標や夢をあまり口にするタイプではない。黙々と今できることを最上位に置いてやり続ける人間です。常にもっと上、もっと上と考えているので、もう一生、現状に満足しないんじゃないですかね。今回のW杯で仮に優勝していたとしても一切満足していなかったと思いますから(笑)」
4年後のW杯へ向けた戦いはもう始まった。濱口の話を聞いて、冨安はきっと誰よりも先に動き出していると確信した。
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