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「じゃあ、5年後はプレミアリーグだね」冨安健洋が“Jリーグ復帰”を目指す同級生にかけた言葉とは?「目標はメッシではなく、ずっとタケ」
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakuya Kaneko/JMPA
posted2022/12/23 11:02
大会前の負傷もあり、万全な状態でW杯に臨めなかった冨安健洋。4年後に向けて再スタートを切った
「テレビ画面を通してもタケの悔しさが伝わってきました。でも、きっとこの悔しさを絶対にプラスに変えてくれるはず。まだまだ彼は上に行きますよ」
悔しさと不甲斐なさを滲ませる冨安を見てそう確信したのは、現在、J3鹿児島ユナイテッドからの期限付き移籍先であるヴェロスクロノス都農(九州サッカーリーグ)でプレーする濱口功聖だ。かつてアビスパ福岡の下部組織で冨安とセンターバックを組んでいた盟友である。生まれた街も近く、中学・高校と青春時代を同じピッチの上で過ごした冨安の心情は、遠く離れていた場所にいてもよくわかった。
キャプテンに立候補「俺、やります!」
2人の出会いは、中学に上がる前、小学6年の頃まで遡る。場所はアビスパ福岡U-15のセレクション会場。未来の卵たちを見極めるために設けられた“1キロ走”で、冨安は圧倒的な存在感を示した。
「3周走(1キロ走)には自信があり、4分前半のタイムでした。でも、僕と別のグループで走っていたタケはそれを30秒近くも上回って、3分台で走り切ったんです。正直、当時はタケのことを知らなかったので、こんなやつがいるのかと驚きましたね」
周囲を大きく引き離してゴールする姿に「ただ者じゃない」ことはすぐに理解できた。
ともにセレクションを突破して晴れてチームメイトになった2人。そこでも再び“タケ”に驚かされたと濱口は懐かしそうに思い出を振り返る。
U-15チームの始動間もない頃の練習試合。円陣を組んだ時、白木千吉コーチ(当時)が「キャプテンをやりたい選手はいるか?」と選手たちに問いかけた。みんなが顔を見合わせる中、「俺、やります!」と真っ先に手を挙げたのが冨安だった。
「僕と同じ人見知りで、物静かで大人しいタイプだと思っていたので、すごく意外だなって(笑)」
濱口がこのシーンを真っ先に挙げたのは、その後のエピソードが頭に焼きついているからだ。キャプテンの最初の仕事である試合前の号令で、冨安はスタッフを含めた全員で気持ちを一つにするべく手を叩いてチームに声をかけた。「いくぞ!」「さあ、行きましょう!」と喝を入れてから「せーの!」と声をかけるのが常だが、何を思ったのか冨安は「よ〜お!」と音頭を取ったのだ。
「スタートではなく、いきなり締めちゃったんですよ。コーチから『タケ、終わってしまったじゃないか!』と突っ込まれていましたね(笑)」
冨安が意図したものだったのかはさておき、そのひと言でその場の雰囲気が和んだ。