世界屈指の知将に、戦術的駆け引きで上回った

　ハンジ・フリック監督からすれば、内容的には押されているものの追加点は取れそうで、中3日の日程を考えて主力2人の疲労を軽減させる思惑があったのかもしれません。そして、ヨナス・ホフマンとレオン・ゴレツカを投入することで運動量を再び確保しつつ、トドメを刺そうと。

　しかし結果論にはなりますが、この交代からチームは徐々に方向性を失ったように感じました。それは日本に逆転されたことと、逆転してからのドイツの戦いぶりから読み取れました。

　ゴレツカかホフマンが得点していれば、フリック監督の采配は評価されたでしょう。しかし、交代のカードが結果に直結したのは、ドイツではなく日本の方でした。途中出場の三笘、南野、堂安が同点ゴールに関わり、同じく後半からピッチに立った浅野が逆転弾を蹴り込んだ。どちらのゴールもそれぞれの良さが存分に出た素晴らしいゴールでした。

浅野拓磨はノイアーが守るゴールの「ニア上」を打ち抜いた　©Takuya Kaneko/JMPA

　前半の圧倒的に苦しい展開を受けて後半から持ち直し、絶体絶命のピンチを全員が身体を張って防ぐ。立て続けの選手交代で自分たちの時間を加速させ、あのドイツを相手に大逆転──今回の試合は、紛れもなく監督采配による勝利でした。

　世界屈指の知将と言っていいフリック監督を、森保監督が戦術的駆け引きで上回ったのです。前半の劣勢はもちろん課題ですが、サッカーは90分トータルで結果がでるスポーツでもあります。森保監督のハーフタイムと後半の采配は、日本サッカー界にとってとんでもなく大きなトピックだったと思います。

　僕自身も指導者ライセンスを受講しているひとりですが、日本人指導者として勇気を与えてもらいました。コーチ陣を含めての決断力、分析力、試合中の采配は痛快でした。

ドイツ戦後、ひとりピッチでお辞儀をする森保一監督　©Getty Images

称賛されるべき選手たちの自己解決能力

　監督の判断を実行した選手たちのパフォーマンスも、称賛されるべきです。

　個人的に感心させられたのは、選手たちの自己解決能力でした。スタメンでピッチに立っている選手も、途中出場の選手も、システムや戦術変更に即座に対応して、ゲームの流れに沿ってプレーをしていった。鎌田や伊東は3つ、4つとポジションを変更しました。それでもしっかりとチームのベースを守りつつ、状況に応じて自分の個性をチームにしっかり還元させていました。選手全員、本当に素晴らしかったと思います。

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