「いまは......何も考えたくないです」

　メディアの人間たちで埋まった会見場は湿った空気に包まれた。とても高校生史上最多の6球団から1位指名を受けた選手の会見とは思えない空気だった。

記者から桑田への尖った質問「どう受け止めていますか？」

　桑田の会見が始まったのはそれからしばらく後だった。

　プロ球団から指名を受けたことで急遽設定された会見に、父と母に伴われながら現れた。学ラン姿の桑田は硬い表情だった。

「巨人から指名を受けたことをどう受け止めていますか?」 

　登壇したエースに質問が飛んだ。記者の口調は清原のときとは異なり、どこか尖っていた。

　それに対し、桑田は表情を動かすことなく答えた。

「子供のころから憧れていた巨人に1位指名されて嬉しいです」

　会場が少しどよめいた。記者たちは桑田が巨人に嫌悪感を示すはずだと予想していたようだった。

「でも清原くんがかわいそう。あれだけ巨人にいきたいと言っていたのに、蓋を開けてみれば1位はぼく……。なんだか悪い気がします」

　表情を変えることなく語った桑田に記者たちの視線が冷たく刺さった。「桑田は大学へ」 と書き続けた記者たちには、未成年に裏をかかれたという怒りと恥ずかしさが内在してい るようだった。会見場は清原のときとは正反対の殺伐とした空気に満ちていった。 

　二人に対するメディアの温度差は、そのまま世の中から向けられた感情だと言い換えてもよかった。KKは悲劇のヒーローと強かな悪役とに分断されていた。井元の目には、二人の距離はもはや取り戻しようがないほど遠くなってしまったように映っていた。

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